著者
永井 圭司 NAGAI Keiji
出版者
名古屋大学大学院文学研究科
雑誌
名古屋大学人文科学研究 (ISSN:09109803)
巻号頁・発行日
no.38, pp.25-32, 2009-02

平安初期部首分類辞書『新撰字鏡』において、『玉篇』がどのように引用されたのか、先行研究の検討と『新撰字鏡』天治本革部の調査から考察する。新撰字鏡内における玉篇引用の態度は、各部首の所属文字を前から後ろへと順に採録していくものであるが、それは網羅的に行われるのではなく穴の空いたように飛び飛びに採られている。この実態について、『新撰字鏡』天治本と『篆隷万象名義』を対照調査すると、玉篇の引用は飛び飛びに採録したのではなく、玄応『一切経音義』と『切韻』から先行して引用されたと思しき字を避けるように採っていると判断できる。そうした操作が可能なのは、主要引用辞書のうち唯一の部首分類辞書である『玉篇』のみである。『新撰字鏡』の編者は『玉篇』を補完的役割として活用したものと考えられる。また、飛び飛びに採録しているように見える実態は、他辞書からの引用字を避けた結果として起きたものと思われる。