- 著者
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長山 雅晴
井倉 弓彦
NAGAYAMA Masaharu
IKURA Yumihiko
- 出版者
- 岩手大学人文社会科学部
- 雑誌
- 盛岡応用数学小研究集会報告集
- 巻号頁・発行日
- vol.2007, pp.8-16, 2008-01-01
1本のロウソクに火を点すと,炎が一定形状を保ち燃焼し続ける(図1.1(a))ことは多くの人が知っている.ロウソク燃焼に関する有名な本としてM.Faradayの「Thechcmical history of a chandle」がある[1].1860年のクリスマスに開かれたFaradayの講演を記録し出版した本であり,実験に基づいた1本のロウソク燃焼の機構について一般市民にわかりやすく説明を行っている.ロウソクの定常燃焼がロウと酸素の供給するバランスによって実現されることは多くの人に理解されてきた.それでは,「もしロウと酸素のバランスが崩れると何がおきるのであろうか?」この問題に対する一つの答えとして,1999年に石田氏と原田氏は定常燃焼するロウソクを2本近づけるとロウソク火炎が振動する現象を雑誌「化学と教育」に報告した[2].同様に定常燃焼する複数のロウソクを束にすれば,炎の形状は一定周期で振動しながら燃焼し続けるようになることもわかった(図1.1(b)).現在のところ,この振動燃焼は熱によりロウが過剰供給され酸素供給が不足することによる不完全燃焼のため起こる現象と考えられる1.我々は,この振動しているロウソク火炎をロウソク火炎振動子と呼ぶことにしよう.それでは,「振動するロウソク火炎振動子を2組用意し,ある距離に置くと何が起こるであろうか?」この問題に対して,山口大学の三池氏らは2つの振動子を近づけると同位相同期振動し(図1・1(C)),ある程度の距離に離すと逆位相同期振動する(図1.1(d))ことを発見した.このとき,次の疑問が必然的に生じる:距離に依存した同期現象の本質的相互作用は何であろうか?本研究の目的は数理的視点からロウソク火炎振動子の本質"相互作用"を明らかにすることである.ロウソク火炎の機構には,ロウの液化,気化,毛管現象を伴った燃焼過程,熱や酸素の拡散過程,流れによる熱や酸素の輸送過程,幅射のような熱エネルギー放出等が複雑に絡み合っていることから,ロウソク火炎振動子の同期振動現象の本質的相互作用を調べることは容易ではない.例えば,複数の相互作用の中から一つの相互作用を取り出して実験を行うためには,実験において流れの相互作用のみを取り出すための実験系の環境を作らなければならないし,流れのない実験環境を作るには「微小重力環境」が必要である.そこで本研究では,数理的視点からロウソク火炎振動子の相互作用を明らかにしていく.ここではいくつかの数理モデルを提案しロウソク火炎振動子の同期現象の本質的相互作用が何であるかを探っていき,数理モデルを構成する過程で対流や拡散が同期現象で果たしている役割を数理的に考察して行きたい.