著者
濱崎 直孝 Naotaka HAMASAKI
出版者
長崎国際大学
雑誌
長崎国際大学論叢 = Nagasaki International University Review (ISSN:13464094)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.275-281, 2008-03

血栓性素因とは血栓症を発症しやすい体質のことである。欧米白人種の血栓性素因は、凝固系第五因子の1箇所の変異(Factor V Leiden(R506Q))であることが10年余り前に判明し、欧米白人に対する血栓症対策は急速に進歩した。しかしながら、黒人やアジア人など欧米白人以外の人種では、Factor V Leiden(R506Q)を保因している人は皆無であり、これらの人種での血栓性素因の解明がいそがれていた。我々は日本人ならびにアジア人における血栓性素因の解明を目指して研究を行ってきた。その結果、日本人の血栓性素因は凝固制御系因子 Protein S 遺伝子変異であることが判明した。その後、最近になり、我々の結果を裏付ける結果がタイ、台湾、中国(香港)から次々に発表され Protein S 凝固制御系因子の異常が日本人のみならずアジア人の血栓性素因であることが証明されつつある。凝固制御系因子 Protein S は凝固系第五因子を制御することで過剰な血栓形成が起こらないように制御している因子であり、生体内では、凝固系第五因子と凝固制御系 Protein S のバランスが適切な血栓形成に重要な役割を果たしていることが推測される。今後は、凝固系第五因子と Protein S 凝固制御因子の関係を詳細に研究し、アジア人の血栓症発症予防ならびに治療対策を推進すべきと考えている。