著者
Takaaki Shimizu Nobuhiko Taniguchi Nobuhiko Mizuno
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
Japanese Journal of Ichthyology (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.329-343, 1993-02-15 (Released:2011-07-04)
参考文献数
40

河川陸封性魚種であるカワヨシノボリの地理的変異を, アイソザイム分析を用いて23遺伝子座について検証した.各河川の集団間の遺伝的分化は回遊性魚種や周縁性魚種のそれと比べると人きな値をとり, この差は本種の生態学的特性を反映しているものと考えられる.遺伝子組成の相違により, 本種の集団は5つのグループに大別された.21集団から成る最も大きなグループ (グループ3) は瀬戸内海を中心に分布し, 6集団からなる, 濃尾平野を中心に分布する第2のグループ (グループ2) とは鈴鹿山脈によって隔てられていた.両グループ内の遺伝的分化の程度は共に小さかった (平均遺伝的距離: 0.02-0.04).本種の分布域の東限に分布する第3のグル― プ (グループ5) は他のグループとの間だけでなく, グループ内においても遺伝的に最も大きく分化していた.残る2つのグループ (グループ1と4) は, 各々, 単一の集団からなるグループと, 遺伝的に類似するが地理的な近似性の無い3集団からなるグループであった.本種の現在の分布は洪積世以降の日本列島の地史を反映しているものと考えられる.