著者
TOMA Takako MIYAGI Ichiro OKAZAWA Takao HIGA Yukiko LEH Moi Ung
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.281-308, 2010
被引用文献数
1

マレーシア・サラワク州のクチン周辺の海岸地帯には大小の椰子園があり,園内には緑色(未成熟)の椰子の実が落下している.落下した果実の多くは地上でネズミやツパイにより穿孔され,果実内には腐敗した水が溜まる.これらの水溜りには多数のクロヤブカ亜属(<i>Armigeres</i>)の幼虫が発生している.<br>これらの果実内から多数の幼虫を採集し,室内で個別飼育により,幼虫・蛹の脱皮殻・羽化成虫からなる一連の標本約200個体を入手した.標本を雄の生殖器の形態的特徴により比較検討し同定した結果,クロヤブカ亜属の蚊5種, <i>Ar. confusus</i>, <i>Ar. jugraensis</i>, <i>Ar. moultoni</i>, <i>Ar. malayi</i>, <i>Ar. setifer</i> が混生していることが明らかになった.これら5種の内,前3種の成虫は1900年初頭に英国の研究者により新種として記載されたが,原記載は不完全で,幼虫,蛹はこれまでに全く記載されていない.本論文でこれら3種の全ステージ(卵を除く)を詳細に記載した.また,椰子園に生息する5種の,成虫,雄生殖器,蛹,幼虫の形態を比較し,同定のための検索表を作成した.