著者
小野 文衛 Ono Fumiei
出版者
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発資料 = JAXA Research and Development Memorandum (ISSN:24332224)
巻号頁・発行日
vol.JAXA-RM-18-002, pp.1-99, 2018-10-11

酸素システムにおいては, 火災の三要素, すなわち, 燃料, 酸化剤および発火源, のいずれも取り除くことが困難である. このため, 発火の危険性を可能な限り低減または排除するように配慮して酸素システムを設計, 運用する以外に方法が無い. これまでに, 航空宇宙, 潜水, 医療, 産業などの分野において, 酸素が関係する火災や爆発事故が多数発生している. 本資料では, 過去に起きたこれらの事故事例の調査を行った結果について可能な限り紹介した. これらの事故の経験を基にして関係諸法の整備および技術的な調査・研究などが進められ, 酸素システムの安全性の向上が図られてきた経緯がある. 酸素を扱う全ての者は, 酸素の基本的特性に関して教育を受け, 各指示書や作業手順書を逸脱しないことが大切であるが, それらの指示や手順が何故そのようになっているのか, その本質を理解することも安全上重要である. もしも指示書や手順書に規定されていない事態が発生した場合でも, その事象の本質を理解して対処することができれば, 最悪の事態を免れる可能性が高いためである. 本資料では, 米国における航空宇宙分野および一般産業分野で発生した酸素関連の事故事例を中心に紹介し, 併せて欧州と我が国における事例についても示した. 本資料には約540 件の事故事例を示したが, その原因は基本的知識の欠如(教育不良), 手順違反/不良, 設計/製造不良, 材料不適合, 洗浄/確認不良, 汚染, 保守/点検不良, 管理/監督不良などに分類される. これらの事例の中には, 基本的知識の欠如や手順違反/不良によるものが相当数見られた. さらに, 大部分の事故は単独の原因ではなく, 複数の原因が重なって発生している. また, 酸素を安全に取扱うために必要な最低限の事項についても述べ, 関係する文献類については本資料の末尾に示した.