- 著者
-
尾崎 真奈美
オザキ マナミ
Ozaki Manami
- 出版者
- 相模女子大学
- 雑誌
- 相模女子大学紀要. C, 社会系 (ISSN:1883535X)
- 巻号頁・発行日
- vol.77, pp.183-193, 2014-03-07
研究ノート(Research Note)The primary purpose of our panel presentation is to introduce our philosophical, religious andpsychological approach to our planned "Morininaru" ("Becoming Forest") Burial project. The first presenter Dr.Yoshikawa approaches from the perspective of his Moebius integral model embodying the dialogical philosophy which can integrate organically those polarities of human existence and experience – relationships between man and nature, body and mind, life and death, one and many, modern and tradition, and dialogue among different religions. Shukai Kono, the second presenter, is a Buddihst Monk who has produced "Morininaru." In this panel he will explain how "Morininaru" realize relations and connections between human and nature, individual and society, life and death, and this life and next life from the religious perspective. Morininaru means "I will become forest" in Japanese. Phisically, religious, and Morininaru is a movement that the dead person becomes the forest by planting a tree, and sustains the nature. This movement is also explained as a spontanious spiritual growth, with which the individual consciousness would expand universal consciousness. In other words this is a spiritual movement to offer a new paradigm to the individual consciousness and religious thoughts. Morininaru could be a practical philosophy to search a new shema transcending dicotomization. Mrs. Ozaki, the third presenter approaches the subject from a perspective of her renewed positive psychology, "Inclusive positivity theory." This is a model of authentic wellbeing realized through integrative perspective, the Moebious theory presented by the first presenter, Dr. Yoshikawa. She came up with a new awareness of happiness, which she terms as an "authentic wellbeing" which can be realized by integrating the positive and the negative states of mind. She will explain the model based on her researches conducted with respect to the 3.11 Earthquake and Tsunami disaster, which occurred in Japan in 2011. Her research results suggest that the pessimistic attitude could be more adaptive at the time of crisis and that the pain contributes to growth. Based on the results she showed that negative emotional experiences promote spiritual growth and pro-social activity, which does not accompanied with reward cultivate one's life satisfaction and positive emotion. This positivity accompanied by negativity is called "Inclusive Positivity." "Inclusive Positivity" connects and integrates those seemingly conflicting phenomena such as sadness and happiness, death and life. The "Morininaru" has a function to transform the grief of death to the virtuous positive emotion, and is considered to be a practice of "Inclusive Positivity."2011年311災害は、日本の東北地方に壊滅的な打撃を与えただけではなく、今なお地球規模の環境への影響は続いている。まずは、世界の皆様に日本人を代表して深くお詫びを申し述べたい。しかし日本人は、不運や不幸を排除すべき事ではなく、より良くなるためのプロセスとして捉え、そのために祈り実践していくことを知っている。世界唯一の被爆地Nagasaki、Hiroshima が20世紀の聖地となったように、Fukushima は21世紀の聖地となるであろう。そしてその動きはすでに始まっている。宮脇明が提唱し、実践している「森の長城プロジェクト」がそれである。我々は、本シンポジウムで「森の長城プロジェクト」と「森になる」が通底している、持続可能な「利己を排除しない利他精神」を論じ、日本を砦とするこの運動が世界に広がっていくことを期待しつつ、その実践哲学、心理学理論、そして具体的方策を提案する。本シンポジウム発表の主要目的は、「森になる」に対する哲学的、宗教的そして心理学的なアプローチを紹介することである。最初の発表者吉川宗男は、統合的な実践哲学モデルである「メビウス理論」の視点から「森になる」にアプローチする。メビウス理論とは、もともと二極化されている人間存在と経験、すなわち人と自然、心と体、生と死、一と多、近代と伝統といったものの対話を促し統合するための理論である。メビウス理論により、異なった宗教間の対話も可能となる。メビウス理論は、そのようなコンフリクトを日本的な場・間・和をもって対話を促す実践的哲学モデルであり、「森になる」実践の基本的理論的土壌である。二番目の発表者河野秀海は、「森になる」を提唱した浄土宗の僧侶である。本シンポジウムにおいて彼は、「森になる」がどのようにして人間と自然、個人と社会、生と死、この世とあの世をつなげるのか、宗教的な視点から説明する。「森になる」とは、日本語では「私が森になる」という意味である。具体的には、死ぬ前に樹を植えて森となることによって、自然を永続的なものにしていく貢献をする運動である。この運動を精神的にとらえるならば、自発的なスピリチュアルな成長としての説明も可能である。つまり、植樹することによって、個人の意識が宇宙的意識へと、意図しないうちに拡大するのである。すなわち「森になる」は、個人意識と宗教思想へ新しいパラダイムを提供するスピリチュアルな運動ともなりえる。「森になる」は従って、二元論を超越してワンネスの経験を促す、一つの新しい枠組みを探求する哲学実践ともなりうるのである。三番目の発表者尾崎真奈美は、このテーマを、新しいポジティブ心理学の理論である「インクルーシブポジティビティ理論」の視点よりアプローチする。これは、先に吉川が説明したメビウス理論という統合的視点をとおして実現される、本質的なウエルビーイングのモデルである。死すべき存在である人間のウエルビーイングは、ポジティブ、ネガティブ状態双方の統合なしには実現しない。彼女はネガティブさを含んだウエルビーングのモデルを2011年日本で起きた大災害に関する調査データに基づいて説明する。その調査結果は、危機においては悲観的態度が楽観的態度よりもより適応的である可能性と、痛みが成長に貢献することを示している。この結果に基づいて彼女は、ネガティブな感情体験が、スピリチュアルな成長、向社会的活動を促進することを実証した。その中で、社会的に意義ある行動は、直接報酬を伴わない場合においても、実践する個人の人生満足度とポジティブ感情を増加させることが示された。このような痛みを伴う崇高なポジティブさを「インクルーシブポジティビティ」と呼ぶ。インクルーシブポジティビティは、悲嘆と歓喜、生と死のような一見相反するような現象を結びつけ統合する。「森になる」は、死別の悲嘆を社会的に価値あるポジティブ感情に変容させる機能を持ち、インクルーシブポジティビティの一つの実践であると考えられる。