著者
Paul Callomon Amanda S. Lawless
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1-2, pp.13-27, 2013-01-31 (Released:2016-05-31)
参考文献数
27

主に貝殻と歯舌の形態に基づいてスジマキイソニナ属(新称)Lirabuccinum Vermeij, 1991の現生種の再検討を行い,黄海から見出された1新種を記載した。さらに,関連するタクサのタイプを検討し,Searlesia constricta Dall, 1918, Euthria hokkaidonis Pilsbry, 1901 とE. fuscolabiata E. A. Smith, 1875のレクトタイプを指定した。Lirabuccinum dirum (Reeve, 1846) スジマキイソニナ属のタイプ種,カリフォルニアからアラスカまでのアメリカ西岸に分布。Lirabuccinum fuscolabiatum (E. A. Smith, 1875) エゾイソニナ北海道から東北沿岸太平洋側,日本海,および朝鮮半島南部に分布。土佐湾からも記録がある。Fususmodestus Gould, 1860 [non philippi, 1844]トバイソニナ,Searlesia constricta Dall, 1918チョウセンイソニナは異名。Lirabuccinum hokkaidonis (Pilsbry, 1901) ホソエゾイソニナ(新称)本種はエゾイソニナの亜種,あるいは近年は主に異名として扱われてきた。今回,タイプ標本を初めて図示し,多くの標本を比較することにより,両者は独立した種であることが明らかとなった。本種はエゾイソニナよりも細長く,縦肋がより細く密に並ぶ。これまで北海道北西岸から男鹿半島の間の海域からのみ採集されている。Lirabuccinum musculus n. sp. コネズミツノマタ(新称)見かけ上イトマキボラ科の種に類似するが,軟体部の外部形態と歯舌の形態から本属に含まれることが分かった。タイプ産地(山東省威海沖の黄海,水深 30~ 60 m)からしか知られていない。これらの種を貝殻の形態で詳しく比較すると,まず貝殻の厚さでスジマキイソニナが北西太平洋産の3種と著しく異なる(前者の方が厚い)。また,貝殻断面でみた殻口内の螺状襞の構造などにも両者に明らかな違いが認められ,太平洋の両岸で大きく分化している可能性が示された。しかし,歯舌や軟体部外部形態の違いに大きな違いがないことから,属レベルで区別するためには化石種との比較などのさらなる証拠が必要である。