著者
仲渡 理恵子 Rieko Nakato
出版者
同志社大学日本語・日本文化教育センター
雑誌
同志社大学日本語・日本文化研究 = Bulletin of Center for Japanese Language and Culture (ISSN:21868816)
巻号頁・発行日
no.18, pp.29-49, 2021-03

副詞「少なくとも」は、「せめて」と関連づけられることが多いが、「せめて」が様々な視点から研究されているのに比べ、「少なくとも」は用法などが明らかにされているとは言いがたい。本稿は、日本語書き言葉コーパスから、「少なくとも」の意味と用法を「せめて」と対照し、分析、考察したものである。その結果、「少なくとも」は、主に文中に配置され、名詞が後接し、人や時間についての言及や、数量を伴って用いられることが多いとわかった。「せめて」は「最大限」をも表すことがある場合が「少なくとも」とは異なり、「少なくとも」は、あくまで主観的に話者が最小だと思う数の表現や、最低だと考える範囲の見積りで留まっている点で、「せめて」のような幅を持たないことが判明したが、「少なくとも」は、「せめて」より多くの構文的展開が可能であった。「過去」「否定」「推量」「様態」「帰結」「名詞」「範囲」「必要性」「一般条件」は「少なくとも」のみで使われており、限定を示すとり立て助詞や、比較を意味する助詞が含まれる文も目立った。構文的展開に見られた「思う」は、「少なくとも」の意味が、主観的に話者が見積る最小量、最低限であるという点から、意志や断定に近い意味で「少なくとも」の文末に使われやすいという傾向も判明し、「少なくとも」は「少なくとも話者はM(=minimum:最小量や最低限の範囲の主観的な見積り)と思う」とモデル化することができた。