著者
木下 りか Rika KISHITA
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学人文科学部論集 = Otemae journal of humanities (ISSN:13462105)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.A49-A59, 2006-03-31

語基を同じくし意味的な対応を持つ名詞と形容詞は、その意味を大きく変えることなく互換可能である。形状を表す「丸のN」「丸いN」、「四角のN」「四角いN」もその例である。このような名詞と形容詞の使い分けを見ると、名詞「丸のN」「四角のN」は、「コンテクストに存在するほかの形状との対比の中で、Nの性質(形状)について述べる」場合に用いられると考えることができる。「コンテクストに存在する他の形状との対比の中で」ということは、「丸のN」や「四角のN」における「丸」や「四角」が、丸や四角のモノを指示する機能を持つことを示している。このように考えることで、「丸のN」や「四角のN」が制限的修飾として用いられるが非制限的修飾には馴染まないこと、また、非制限的修飾であっても一定の文脈が与えられれば、すなわち客観的定義機能を持つ場合であれば用いることができることなど、これらに特有のふるまいが説明可能となる。
著者
木下 りか Rika KISHITA
出版者
大手前大学
雑誌
大手前大学論集 = Otemae journal (ISSN:1882644X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.125-136, 2008-03-31

ダロウは真偽不定の事態についての判断を表すことができる(例:明日は晴れるだろう)。本稿はダロウの表す判断における推論過程の特徴について考察することを目的とする。推論には、結果からその原因を導く「原因推論」と、原因からその結果を推論する「結果推論」とがある。「原因」と「結果」を、南(1974、1993)の文の階層構造におけるB類のカラで示される事態レベルの関係(「広義因果関係」)におけるものと定義すると、ダロウは「結果推論」には馴染むが、「原因推論」には抵抗を示すことがわかる。ダロウが「原因推論」を表せるのは一定の要件を満たす場合である。「広義因果関係」の逆が成立する場合もこれに相当する。すなわち、「ある結果があればこのような原因があると判断できる」という関係性が知識として定着している、あるいはその関係がカラ節によって強制的に表示される場合である。また、疑問の答として、あるいは提題の助詞ハとともに用いられてもよい。これらは、推論された結果が何かの原因だということではなく、何らかの根拠から帰結が得られたことにのみ焦点を当てる文脈である。以上の事実は、ダロウが、何らかの根拠から帰結が導かれたことのみを表示し、導かれた帰結が、何かの「原因」や「結果」であることを積極的に示すわけではない、と考えることによって説明可能である。ダロウのこの特徴は、「原因推論」を明示するヨウダ・ラシイとは異なる。