著者
Ryan D.M.
出版者
信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センター
雑誌
信州大学農学部AFC報告 (ISSN:13487892)
巻号頁・発行日
no.2, pp.35-65, 2004-03

本研究は、長野県安曇村の上高地乗鞍スーパー林道の冬季の雪崩に対する安全性について検討したものである。この林道は同村白骨温泉の唯一の冬季アクセス道であり、多額の雪崩対策が実施されてきたにもかかわらず、必ずしも危険の低減に成功していないことが、2003年1月に22台の車両と乗客を巻き込んだ雪崩事故として露呈した。米国ワシントン州やアラスカ州での雪崩管理システムと対比すると、日本では恒久的な土木施設による対策に重点をおく一方、雪崩の予報予知といったソフト対策に乏しい。例えば、この林道では2003年3月までの過去23年間において雪崩防止棚88基に約15億円をかけたにもかかわらず、積雪雪崩観測装置・雪崩予知システムの構築には投資をせず、スーパー林道の開閉も近年、降雪量のみを考慮して実施してきた。ここで、欧米で一般的な積極的道路管理、すなわち大雪の予報、道路閉鎖、人工雪崩、道路除雪、道路閉鎖解除、といった一連のシステムのうち、人工雪崩のスーパー林道への適用可能性、安全性、合法性などについて検討してみた。まず、米国の道路管理局とスキー場で用いられている人工雪崩専用の簡易索道について、資料を収集するとともに現地調査を行った。さらに、日本で最近合法的な手投げ式雪崩火薬弾として開発されたACEという花火玉について、雪崩を効果的に起こし得るか否かを安曇村でテストした。この他、県や村の雪崩対策関係者と接触し、積極的道路管理への行政的対応について何が問題点であるかを探った。これらから、人工雪崩用索道とACEとは安曇村で効果的に使用できる可能性はあるものの、索道火薬種類の変更やACE爆発力の増加など更なる技術的改良と同時に、こういった新しい防災システムを導入できる行政的環境の創出が不可欠であることが判明した。