著者
谷岡 勇市郎 SUBESH Ghimire GHIMIRE Subesh
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

防災科学技術研究所(独)に蓄積された多くの地震のメカニズム解を用いて、東北及び北海道の下に太平洋プレートが沈み込んでいるプレート境界に沿って応力の地域的な分布を調査した。応力テンソルインバージョンにより各小プレート境界面の最大主応力軸を推定。その最大主応力軸とプレート境界の法線方向のなす角を推定する。このなす角は地震の破壊または断層の摩擦破壊に対して重要な指標となる。なす角ψが45°になる時に断層面でのせん断応力が最大になり、それはせん断応力が高いレベルでの断層破壊を示す。なす角ψが45°以上になることはせん断応力が低いレベルでの断層破壊を示す。つまり、プレート境界でのなす角ψの分布がプレート境界の固着域分布の把握に重要な情報を与えることが期待される。なす角ψが30°から45°となるプレート境界は比較的強いせん断強度を持つ場所と考えることができる。なす角ψの値と過去の巨大地震の分布の関係を調べると1958年択捉地震(M8.3)、1963年千島沖地震(M8.2)、1973年根室半島沖地震(M7.8)、2004年釧路沖地震(M7.6)、1968年十勝沖地震(M8.1)、2003年十勝沖地震(M8.0)の震源はなす角ψが30°から45°の場所に位置していることが分かる。つまりなす角ψの分布と巨大地震の震源分布から固着域と強い断層面が対応していることが明らかになった。2011年東北地方太平洋沖地震の震源に対しては上記の関係は成り立たないが、この地震で大きくすべった地域は震源からさらに海溝よりにあるとされており、その地域のプレート境界の応力は解析できていないため、関連性を明らかにすることは出来なかった。これらの結果は千島海溝沿い沈み込み帯での将来の巨大地震の固着域がプレート境界でのなす角ψの分布の変化をモニタリングすることで知ることができる可能性を示す非常に重要な研究成果である。