著者
Sasaki Ichio
出版者
北海道農業経済学会
雑誌
フロンティア農業経済研究 (ISSN:21851220)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.63-68, 2010-12-27

本研究は、日本における新たな社会的下支えプログラムとしての「グリーンケア農業」の実践とその成果について論及したものである。ここでグリーンケア農業とは、農業者が農場資源を活用して心身に病みをもつ人びとに対して健康増進と社会復帰を助長する社会活動と定義される。全国の有機栽培農園におけるグリーンケア農業への応答及びその成果に関する分析結果、次の3点が明らかになった。すなわち、(1)有機栽培農園の67%がグリーンケア農業に関心をもち、19%は既に実践していた。(2)グリーンケアの成果として、農業者と彼らの来訪者の間の共感関係が生れていた。(3)来訪者に対する事前面談とその共感関係には関連性がある。日本のグリーンケア農業の展開に関して、理由は二つ示すことができよう。第一に、失業者、引きこもりなどの社会問題は、政府予算にのみ頼る従来型の社会福祉システムでは対処できなくなってきたことである。第2にこれが最も重要な理由であるが、自己の私的目的を失わず社会問題解決に貢献する「多元的な相関選好構造」をもつ新農業者が出現していることである。