著者
棚原 翔平 Shohei Tanahara
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2016-03-25

摩擦現象は最も身近な物理現象のひとつであるが,そのメカニズムの詳細は未だに解明されていない.近年,表面制御技術の進展や原子間力顕微鏡(AFM)や摩擦力顕微鏡(FFM)などの計測技術の発展により,ミクロな視点から摩擦を解明しようとするナノトライボロジーという分野が確立した.我々はこれまで、原子間力顕微鏡(AFM)と水晶マイクロバランス(QCM)を組み合わせたエネルギー散逸顕微鏡(AFM-QCM)を用いて,ナノスケール接触面におけるエネルギー散逸および有効的な弾性力を測定してきた.これまでの研究から,ナノスケール接触面のエネルギー散逸および有効的な弾性力は基板周期ポテンシャルを反映した基板振幅依存性を示すことが明らかになってきた.共振状態の水晶振動子上の試料基板にAFM 探針を接触させると,接触面のエネルギー散逸や有効的な弾性力の増加により水晶振動子のQ 値および共振周波数fR が変化する.試料基板とAFM 探針を接触させた状態でAFM 探針を走査させると,試料基板の表面構造によってエネルギー散逸や有効的な弾性力がさらに変化する.AFM-QCM では表面のAFM でトポ像を測定すると同時に,QCM によるエネルギー散逸像および有効的な弾性力像を取得できる.本研究では,3MHz SC-cut 水晶振動子の中心にHOPG(高配向熱分解グラファイト)基板を貼りつけた試料を用意し,トポ像と同時にエネルギー散逸像および有効的な弾性力像を測定した.図1 にSi3N4探針-HOPG 基板における典型的な表面スキャン像を示す.測定は室温大気中で行われ,スキャン範囲は500 nm x 250 nm,分割数は128 x64 である.図1(a)はトポ像であり,グラファイトの典型的なステップ構造が測定されている.このステップの高さは4 nm で12 層程度の構造であると考えられる.図1(b)はQ 値の逆数の変化,つまりエネルギー散逸像であり,ステップ構造の部分でエネルギー散逸の増加が観察されている.図1(c)は共振周波数fR の変化,つまり有効的な弾性力像であり,エネルギー散逸と同様に,ステップ構造で弾性力の増加が観察されている.