著者
岡澤 太志 Taishi Okazawa
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2013-03-25

本研究では,量子通信路のノイズに関する順序について二つの観点で研究を行った.量子通信路とは,入出力系が量子系であるような通信路であり,量子状態を量子状態に変換する通信路である.また,本研究で扱ったノイズに関する順序とは,二つの通信路が与えられたとき,一方の通信路が他方の通信路にさらにノイズを付加した通信路となる関係(degraded order)である.最初に,二つの量子通信路が任意に与えられたと,degraded order の関係が満たされているかどうかを判定する順序判定アルゴリズムを開発した.本論文では,一方の量子通信路に付加的なノイズの量子通信路が加わる状況を考え,付加的なノイズの量子通信路を変えていくことで合成した量子通信路が他方の量子通信路に一致するかどうかを最急降下法により調べた.提案アルゴリズムによる最急降下法では,まずコスト関数を定義し,コスト関数を0に近づけていくように量子通信路を更新していく.その際,量子通信路の定義より,完全正値性,トレース保存の条件を満たしながら量子通信路を更新していく必要がある.完全正値性は,提案アルゴリズムに Kraus 表現を用いたことにより満たされる.トレース保存条件は,Lagrange乗数法により制約条件付きのコスト関数最小化を行うことで満たされるようにした.次に,量子通信路の順序と量子相互情報量の関係について数値実験を行った.量子相互情報量は,量子通信路と入力系の量子状態(密度作用素)が与えられると計算できる.量子相互情報量の単調性より,二つの量子通信路が degraded order の関係を満たすならば,任意の密度作用素について量子相互情報量の大小関係が成り立つ.本論文では,この命題の逆が成立するかどうかをノイズを持つ量子通信路の典型例であるPauli通信路で調べた.その結果,反例として量子相互情報量の大小関係は成り立つが,二つの量子通信路が degraded order の関係を満たさない例を多数見つけた.