- 著者
-
井手 輝二
Teruji Ide
- 出版者
- 電気通信大学
- 巻号頁・発行日
- 2016-06-24
近年,無線通信システムにおいては,通信速度の高速化が図られている.第1及び第2世代移動通信システムでは音声通信が中心であったが,第3世代では数Mbpsまで高速化した.現在では第3世代と第4世代が混在しており最大100Mbps程度の高速化が実現している.第5世代移動通信システムが実用化すると想定される2020年頃には第3世代,第4世代,第5世代などの各システムが混在していると予想される.低IF方式受信機は,低IFで増幅度をある程度必要とするようなやや低速のデータ伝送の用途に対応するための狭帯域システムに適している.自営無線システムなどでは,今後も狭帯域システムが使用される場合があるため,低IF方式受信機の使用される用途が存在すると考えられる.zero-IFと低IF方式はハードウエア構成が同じであるため,ソフトウエア無線やコグニティブ無線のようにマルチバンドやマルチシステム対応で適用システムを切り替えるときに,ソフトウエアでzero-IFと低IF方式のどちらかの方式を切り替えることが必要な用途に適している.上記各システムが混在している場合において,周波数帯あるいは広帯域(高速データ伝送)/狭帯域(低速データ伝送)をソフトウエアで切り替えることが容易に可能である.本論文は,低IF方式の受信機において必須の課題であるイメージ信号の抑圧比を向上させるために,位相偏差補償処理及び振幅偏差補償処理をディジタル信号処理により実現する厚生及び処理方式の実現について述べている.位相偏差補償処理及び振幅偏差補償処理については受信機に入力した信号によりブラインド的に位相偏差と振幅偏差を検出して補償する方式と,パイロット信号を位相偏差と振幅偏差を生じるアナログデバイスに入力して,位相偏差と振幅偏差を検出して補償を行う方式に分けられる.補償する方法はフィードバック方式及びフィードフォワード方式,位相偏差と振幅偏差を直接検出して補償する方法と逆行列演算で補償する方法,収束アルゴリズムによる方法等がある.本論文では,収束アルゴリズム等は使用せず演算処理を少なくする方法としてブラインド的に1次の制御ループでフィードバック形式による補償方式,パイロット方式で逆行列でフィードフォワード形式により補償する方法を提案し,その解析及び性能評価を行う.第2章では,従来のイメージ信号抑圧方式を解析して,低IF受信機における位相・振幅偏差のイメージ信号抑圧特性への影響を示し,従来方式の問題点を明らかにする.さらに,提案方式の受信機の構成を検討して示す.第3章では,上記ブラインド的にフィードバック形式により1次の制御ループで補償する方法について,実用的な処理で位相・振幅偏差を検出して補償が出来る事の理論的根拠を示し,提案方式の構成において有効性を評価するために計算機シミュレーション及び実験によりイメージ信号抑圧比(IRR:Image Rejection Ratio)が向上することを確認して,その特性の評価解析を行う.さらに提案方法を実用的なFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の処理に対応するために,固定小数点演算の影響があっても実用的な入力信号範囲(入力信号の振幅の現象又は量子化ビット数の減少)で所要の60dBのIRRが可能であることナラビニ処理負荷を軽減するための近似処理による誤差(劣化)を評価解析する.また,収束時間(時定数)・入力信号の帯域幅と精度(分散)の関係及び2信号特性(希望波とイメージ波)についてもシミュレーション及び実験結果について考察して解析を行う.第4章では,上記パイロット信号を使用してフィードフォワード形式で逆行列演算による補償方式について提案を行い,理論的根拠を示し,提案方式の方法において有効性を評価するために第3章の制御ループによる方法と同様に計算機シミュレーションによりイメージ周波数信号抑圧比が向上することを検証して提案手法の評価解析を行う.パイロット方式では,温度変化等により位相及び振幅偏差が変化した場合においても補償が可能となるように受信信号とパイロット信号を合成して補償する方法の提案方式においてデータを平均する必要があるがその平均するデータ数・受信信号(妨害波)の帯域とIRRとの関係をシミュレーションで確認して解析を行う.第5章では,第3章及び第4章における提案方式であるブラインド方式及びパイロット方式についての比較を行い,通信システムに対する適用性を評価解析する.第6章は結論であり,第2章から第4章までの成果を要約する.