- 著者
-
加川 敏規
Toshinori Kagawa
- 出版者
- 電気通信大学
- 巻号頁・発行日
- 2013-03-25
近年我が国では,高齢化社会の到来により独居者や在宅医療を受ける患者が増加し,患者の健康状態評価や生存確認を行う目的で,生体情報の24時間常時モニタリングの必要性が高まっている.このような背景の中,バイタルサイン(脈拍数,呼吸数,心電図,運動量,血圧など)の無侵襲・無拘束計測技術の研究が盛んに行われている.無侵襲・無拘束計測技術とは,利用者の身体を傷つけず,日常生活や生活行動を制限することなく,利用者のバイタルサインを取得することを目指すものである.本研究では,人間のバイタルサインをモニタし,必要な情報をインターネットなどを介してリアルタイムで医療,介護,健康管理センタに提供するヘルスケアネットワークシステムの実現を目指している.ヘルスケアネットワークは1)バイタルサインセンサ,2)Body Area Network (BAN),3)インターネットを用いた情報ネットワークで構成される.1)バイタルサインセンサとはバイタルサインの常時センシングを可能とするセンサ群であり,2)BANとはバイタルサインセンサ群から得られたセンシングデータを本用途に特化した最適な通信方式によって集約するネットワークである.3)インターネットを用いた情報ネットワークとはBANが集約したセンシングデータを医療,介護,健康管理等の目的でインターネットを介して利用できるようにする仕組みである.その中で本論文では,1)バイタルサインセンサがセンシングするバイタルサインの中で脈拍数と呼吸数に着目し,毛細血管からの赤外線反射を利用して得た光電脈波から呼吸数・脈拍数を測定するセンサを検討した.脈拍数・呼吸数を無侵襲・無拘束で計測する技術は,大きく分けてi)センサを身体に取り付ける方法(ウェアラブル型),ii)環境にセンサを設置しリモートセンシングを行う方法(環境埋め込み型)の2つがある.環境埋め込み型は,ウェアラブル型と異なり身体に器具を取り付ける必要はないが,例えばベッド上に圧力センサを配置し,呼吸に伴う体表面の上下変位を取得するといった方法で呼吸数を計測する.しかしこのような方法の場合,バイタルサインの計測がベッド上などの場所に限定されてしまう.利用者は自由に動き回るため,連続的なバイタルサイン測定をするためには場所を限定することのないウェアラブル型が望ましい.本論文では,利用者に対するストレスのない24時間連続測定を可能にするために,既に日常生活に溶け込んでいる腕時計の形をした腕時計型のセンサに着目した.従来の腕時計型脈拍数測定センサは脈波検出が安定せず,脈拍数の精度も低かったが,脈波波形を安定して取得できるアレイ状フォトインタラプタ,および脈波波形を周波数解析し体動状態を検出することで体動状態除去をするアルゴリズムを考案し実装することで,高精度かつ安定した脈拍数測定が可能となった.さらに,呼吸数測定センサでは,脈波波形に呼吸性変動が重畳することに着目し,腕時計型脈拍数測定センサから得られた脈波波形を周波数解析し脈波波形内の脈拍数成分と呼吸数成分を切り分けることで,脈拍数と呼吸数を同時に腕時計型センサで取得することを可能にした.これらの要素技術を組み合わせた脈拍数・呼吸数計測法によって,従来の技術では空間的に限定され,また精度の低かった脈拍数測定を場所や時間を選ばずいつでもどこでも的に限定され,また精度の低かった脈拍数測定を場所や時間を選ばずいつでもどこでも常時測定できるものにし,さらに呼吸数を同時に測定する方法を確立した.これらの技術は,独居者や入院・在宅患者の健康状態をより正確かつ詳細にモニタ可能にするもので,現在の高齢化社会において重要な役割を担うと考える.