著者
臼山 利信 Usuyama Toshinobu
出版者
神奈川大学ユーラシア研究センター
雑誌
ロシア語学と言語教育
巻号頁・発行日
vol.3, pp.49-63, 2011-03-31

オーストラリアでのロシア系移民は8万人を越え、シドニー市内には7校のロシア民族学校があり,ロシア系移民の子供たちがロシア語で教育を受けている.そこでは,白系ロシア人たちの第三世代,つまり孫の世代やソ連崩壊後にオーストラリアに移民したロシア人の子供たちが学んでいる.そもそも移民と言っても機々な移民の波がある.ロシア系移民たちがどのようにしてロシア語を守り,ロシア文化を代々伝えてきたのか,またオーストラリアというイギリス系ヨーロッパ文化の影響の強い英語圏国家で,ロシア人としてのアイデンティティーをどのように形成しているのか,あるいはオーストラリア人としてのアイデンティティーとロシア人としてのアイデンティティーをどのように両立させているのか、筑波大学国際連携プロジェクトの一貫として「オーストラリアにおけるロシア系移民のロシア語教育とアイデンティティーに関する調査研究」を2008年7月1日~2009年1月7日(計191日間)行った.その結果によれば,英語話者への同化プロセスが確かに進行しているものの,ロシアのアイデンティティーを高い水準で維持している家庭は存在し,保持・継承の環境(28ファクター)も碓保されている.一方で,大学に於けるロシア語教育およびロシア語研究の状況は悪化している.