著者
木村 淳夫 WONGCHAWALIT Jintanart
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

単量体アロステリック酵素、すなわちモノマー酵素が示す協同性(基質活性化)の現象例は極めて稀である。我々は、3種類の同酵素(α-グルコシダーゼ・β-グルコシダーゼ・キチン分解酵素)の取得に成功している。従って3酵素が示す協同性の分子機構を究明することは学問上において興味深い。本研究の目的は、単量体アロステリック酵素の分子機構を解明し、応用研究に結び付けることにある。本年度は次の研究成果を得た。アロステリック部位の決定1)X線結晶構造解析:3酵素について結晶作製を継続してきた。キチン分解酵素に関し、X線構造解析が可能な結晶の作製に成功した。2)活性化部位の確認:キチン分解酵素とβ-グルコシダーゼの触媒部位周辺に可動性ループがあり、基質の取り込みにより大きな構造変化の発生が予想された。キチン分解酵素に関し、本ループにある1アミノ酸をTrpに置換し基質分子を与えると、Trp由来の大きな構造変化が観察された。従って基質分子に起因する本ループの構造変化が解明された。またβ-グルコシダーゼに関しては、可動性ループにあるアミノ酸で特に触媒ポケットの入口付近に位置する残基に注目し点置換体を構築した。本変異酵素の解析から可動性ループがアロステリック作用に関わることが判明した。アロステリック酵素の作製ショ糖分解酵素とβ-グルコシダーゼに関し、高い相同性を持つがアロステリック現象を示さない酵素を対象に、アロステリック現象に関与すると予想される構造因子の移植を試みた。ショ糖分解酵素の場合、構造因子の移植によりアロステリックな性質を与えることができた。β-グルコシダーゼは可動性ループ移植を行ったが、酵素活性は大きく減少した。移植位置が触媒部位近傍であるためと考えられ、ループサイズを小さくする工夫が必要と考えられた。なおβ-グルコシダーゼを用いた構造解析で新規なβ-グルカンの取得が明らかになった。