著者
安川 康介 William Stauffer
出版者
日本国際保健医療学会
雑誌
国際保健医療 (ISSN:09176543)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.101-109, 2013-06-20 (Released:2013-07-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1

第三国定住の過程において、難民の健康診断は人道的及び公衆衛生学的な観点から重要である。2010年より、日本はアジアで初の第三国定住の試験的プログラムを開始し、今後受け入れる難民の数が増加する可能性がある。日本でのより充実した難民受入医療体制を整備していくための有用な資料となるように、本稿では、多くの難民を受け入れてきた実績を有する米国の難民受入体制の概要及び難民の健康診断についてまとめた。米国への難民の審査及び受け入れはUnited States Refugees Admission Programを通して、国連難民高等弁務官事務所や国際移住機関などの国際機関、米国の関係省庁、非政府組織の密な連携のもとで実施されている。入国前の健康診断では、米国疾病予防管理センターの作成するマニュアルに基づいて、活動性肺結核や未治療の性感染症などの公衆衛生学的に問題となりうる疾患、危険な行為を伴う身体疾患・精神疾患、薬物依存・乱用等の有無が診断される。2007年以降、従来の胸部X線と喀痰塗抹による結核検査に加え 培養検査と感受性試験が追加されたことにより、米国内での難民結核症例数は減少傾向にある。米国に定住した難民には、90日以内の健康診断が推奨されており、検査項目は入国前の推定治療の有無や難民の出身地を考慮したものとなっている。Voluntary agenciesによる支援や医療通訳サービスが、難民の医療受診に重要な役割を果たしている。難民の健康診断ガイドラインの存在や医療通訳制度など、様々な長所を有する米国の難民受入医療体制だが今後の課題として、国内外の医療従事者間のコミュニケーションの向上、各州における受入医療体制の標準化、精神疾患の診断・治療の向上などが必要である。