著者
Chan Johnny C.L. Wang Yongguang Xu Jianjun
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.4, pp.367-380, 2000-08-25
被引用文献数
2

南シナ海(SCS)夏季モンスーン(SCSSM)の様々な観点を研究する目的でSCSモンスーン実験が1998年5-6月に実施された。本論文ではSCSSMオンセットと関連した力学的・熱力学的特徴について予備的な結果を示す。研究目的は850-hPa東西風の東風から西風へのシフトとSCS上の日降水量の突然の増加に基づいて定義されたオンセットを引き起こしたメカニズムを決定づけることである。これらの基準に基づき1998年のSCSSMのオンセットは5月25日であった。高い相対湿度と同様に夏季の南北温度傾度、子午面循環は5月上旬にSCS上で既に確立していた。一方、海面気圧の南北傾度および東西風循環の反転はオンセット直前に起こった。オンセット前日、850hPaと500hPa間の飽和相当温位の鉛直傾度はSCS全域で最大に達しており、下層大気がとても不安定であったことを意味している。ベンガル湾の熱帯低気圧は明らかにSCS地域への水蒸気輸送に対する導管の役割を果たしていた。加えて、北西太平洋の亜熱帯高気圧は東方へ後退し、105°-125°E間のequatorial buffer zoneと関連して赤道越え気流が105°E付近で卓越した。これらの結果として下層西風が形成された。上述のプロセス全てがSCSSMオンセットの必要条件になった。チベット高原北東部で生成された前線性低気圧がSCS地域に南進すると、そこで上昇流が強化され多量の降水を促した。まさにこれがSCS全域でモンスーンオンセットが生じた時であった。