著者
佐川 寿栄子 YOUSEF Mohamed K.
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.85-92, 1986-03-01

砂漠は暑熱乾燥の最も厳しい環境である. このような環境で人間が住み働きうる能力は, 体温調節と水分代謝をいかに円滑に行うかに依存しているといえる. ここでは, 自然の砂漠環境で行われた実験に限定して, 人間の汗腺活動と水分代謝に関する知見を概説した. 砂漠では発汗疲労は観察されていない. 総発汗量は脱水または水分および塩分補給による影響は受けず, 年令や人種による差も認められていないが, 男は女より明らかに大量に発汗することが知られている. 口渇を癒す為に飲む水の量は汗の電解質濃度とよく相関している. 砂漠での歩行では, 体氷分の1時間当りの損失が体重の1.5%以下であれば, 発汗によって失われた水分および塩分に相当する量を定期的に補給することにより, 脱水を防ぐことが可能である. しかし体重の3%を越えるような場合には, たとえ水分および塩分を補給しても失われた体水分の50%程度しか回復しない.