著者
鹿野 嘉昭 Yoshiaki Shikano
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.165-233, 2013-07-20

本稿は、明治政府が、殖産興業の推進および京都や大阪の富豪から借り入れた会計基立金の返済原資の捻出を図るべく、明治元年5月から翌2年7月にかけて発行した太政官札という政府紙幣の流通状況や貨幣としての性格、役割と意義について数量経済学的な観点から改めて分析・検証することを目的とする。その結果、次に掲げるような知見が得られた。第1に、太政官札は殖産興業の推進を主たる狙いとして発行されたが、その後、財政資金繰りが窮屈になったため、財政赤字の補填目的での発行が急増した。第2に、太政官札の場合、流通価格の急落や貨幣としての非流通性が強調されることが多いが、文献資料に記載された流通価格の推移をみると、通説が説くほどの悪貨ではなく、それなりに流通していたのではないかと判断される。第3に、太政官札の貨幣としての性格も大きく変容した。太政官札は「一時ノ権法」による特別の貨幣として発行されたが、発行量が急拡大するなかで、明治政府が国民に対して正貨と同様の交換手段としての利用を求めたことを契機として通常の貨幣としての性格を強めた。
著者
鹿野 嘉昭 Yoshiaki Shikano
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.199-257, 2011-09-20

本論文は、中近世における欧州諸国の貨幣史を簡単に振り返ったあと、商品貨幣という貨幣供給にかかわる制度的な制約の下で経済発展とともに生じた通貨不足や金銀貨の並行流通に起因する通貨間の換算問題という中近世欧州諸国における貨幣をめぐる諸問題について各国の政府や民間部門がどのように対応してきたかに関する議論を経済学的な視点から展望するものである。その際、貨幣制度と決済という2つの概念を基軸に据えるところに特色があり、その結果、次のような事実が確認された。第1は、対外交易と国内取引との間での決済手段の分離である。第2は、計算貨幣と実体貨幣の分離である。第3は、貨幣以外の決済手段の開発と集中的な支払決済機構の確立である。
著者
鹿野 嘉昭 Yoshiaki Shikano
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.159-186, 2007-09-20

江戸時代の日本では、藩札という事実上の不換紙幣が地方所在の大名領国における日常の交換手段として広く普及していた。この藩札の流通状況に関しては、その大部分は濫発とともに幕末にかけて価値が大きく下落し、領民の生活に悪影響を及ぼしたとされることが多い。仮にそうだったとした場合、明治政府が発行する不換紙幣を誰もが喜んで交換手段として受け入れたとは考え難い。しかし、明治通宝という政府不換紙幣がすんなりと受け入れられたほか、藩札と新貨幣との交換も順調に進んだのである。本稿は、藩札濫発論に問題があるのではないかという視点から、明治初年に作成された各種の資料などを利用して江戸後期における藩札発行高の推移を独自に推計のうえ、貨幣論の立場から改めて藩札濫発論の妥当性について検討しようとするものである。その結果、藩札濫発論あるいは価値下落論のいずれとも支持されえなかった。だからといって、藩札の増発自体を否定するものではない。むしろ、藩札の増発は、徳川幕府が万延の改鋳後に財政赤字補填を目的として採用した通貨増発政策、それに伴って生じた銀相場の大幅な下落や国内一般物価の騰貴に起因するものと観念される。
著者
鹿野 嘉昭 Yoshiaki Shikano
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1-2, pp.35-79, 2010-09-20

本稿は、明治初年に実施された旧藩札と新貨との交換(藩札整理)の実態について数量分析の立場から明らかにすることを狙いとしており、次のような興味深い事実を見出した。藩札の新貨との交換価格は各地における金銀銭相場を基準にして全国一律のルールにしたがって藩ごとに個別に決定されたが、届相場が九六銭12貫500文以下となった諸藩発行の銭札・銀札については、全国一律に1貫文8銭あるいは100文当たり8厘、市場実勢との比較において2~3割ほど割安な水準で新貨に交換された。明治政府が承継した藩札債務は3855万円から最終的には2493万円に更生減額されたが、その8割は先に掲げた交換価格の設定方法に由来する。そうであるがゆえに、大蔵省としても「官吏を派遣し精密な調査を行った結果、諸藩から報告のあった藩札の流通価格が大きく減額されたため」としか説明できなかったのであろう。