著者
北坂 真一 Shinichi Kitasaka
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.81-100, 2008-07-20

Hamilton(1988,1989,1990)で提案されたマルコフ・スイッチング・モデルは、持続性のある異なるレジームが繰り返し切り替わるような状況を分析するのに適している。本稿では、このフレームワークを使いわが国の財政政策について政策反応関数を推定した。その結果、2つの異なるレジームが存在し、そのうち1993年から2002年は財政赤字を重視する非ケインズ的レジームであることを見出した。
著者
鹿野 嘉昭 Yoshiaki Shikano
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.165-233, 2013-07-20

本稿は、明治政府が、殖産興業の推進および京都や大阪の富豪から借り入れた会計基立金の返済原資の捻出を図るべく、明治元年5月から翌2年7月にかけて発行した太政官札という政府紙幣の流通状況や貨幣としての性格、役割と意義について数量経済学的な観点から改めて分析・検証することを目的とする。その結果、次に掲げるような知見が得られた。第1に、太政官札は殖産興業の推進を主たる狙いとして発行されたが、その後、財政資金繰りが窮屈になったため、財政赤字の補填目的での発行が急増した。第2に、太政官札の場合、流通価格の急落や貨幣としての非流通性が強調されることが多いが、文献資料に記載された流通価格の推移をみると、通説が説くほどの悪貨ではなく、それなりに流通していたのではないかと判断される。第3に、太政官札の貨幣としての性格も大きく変容した。太政官札は「一時ノ権法」による特別の貨幣として発行されたが、発行量が急拡大するなかで、明治政府が国民に対して正貨と同様の交換手段としての利用を求めたことを契機として通常の貨幣としての性格を強めた。
著者
西村 安博
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
経済学論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.1356-1313, 2013-03

論説(Article)日本中世の裁判手続に関する理解の現状に関して、次の内容を明らかにした。第一に、「所務沙汰」において「当事者主義」は「原則」であるとする理解は、戦前の研究以降、継承されている。第二に、「検断沙汰」においては、「所務沙汰」における用語使用の例に倣って「弾劾主義」=「当事者主義」と定義され、用語使用の混乱が見られる。第三に、裁判手続の特色を描き出すためには、「証拠」法の究明が必要であるとの課題を示した。This study looks to clarify theories vis-à-vis legal procedures as practiced in medieval Japan, based on theories pertaining to the Kamakura shogunate. First, the prewar theory that the adversary system was, in principle, inherent in the trial of Shomu-sata, continued to be upheld. Second, the accusatorial principle used in the trial of Kendan-sata had come into use within the adversary system, but because of a misunderstanding; for this reason, there has been some confusion with regard the legal procedures therein. Third, the author addresses the means of establishing proof—an understanding of which is needed to clarify the realities of trials during that time.
著者
鹿野 嘉昭 Yoshiaki Shikano
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.199-257, 2011-09-20

本論文は、中近世における欧州諸国の貨幣史を簡単に振り返ったあと、商品貨幣という貨幣供給にかかわる制度的な制約の下で経済発展とともに生じた通貨不足や金銀貨の並行流通に起因する通貨間の換算問題という中近世欧州諸国における貨幣をめぐる諸問題について各国の政府や民間部門がどのように対応してきたかに関する議論を経済学的な視点から展望するものである。その際、貨幣制度と決済という2つの概念を基軸に据えるところに特色があり、その結果、次のような事実が確認された。第1は、対外交易と国内取引との間での決済手段の分離である。第2は、計算貨幣と実体貨幣の分離である。第3は、貨幣以外の決済手段の開発と集中的な支払決済機構の確立である。
著者
小森 瞭一 Ryoichi Komori
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.61-85, 2006-06-20

小論文は第2次大戦後先進諸国における加速償却政策を比較研究したものである.加速償却政策は民間設備投資を効率的に増加させるもので,1960年代世界的に見られた高度経済成長に貢献した.小稿ではまず加速償却を定義づけ,さらに加速償却政策を歴史的に考察し,理論的側面を検討する.次に企業会計上減価償却が最近の所得課税メカニズムを通じてどのように加速効果をもたらすかを論ずる.本稿の主な課題として第2次大戦後の先進工業国における加速償却規定を比較研究する.最後に加速償却政策の経済的制約として企業会計上の取得原価主義を挙げる.
著者
根川 幸男
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
経済学論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.1095-1120, 2013-03

本稿では,ブラジルの日系キリスト教教育機関「聖州義塾」を取り上げ,1930年代前半の動向と特徴を明らかにする.この時期の同塾は,経営の自立化,教師陣の一新,教会との分離など小林美登利による改革が行われた.その一貫として,生徒の自治組織として塾生会が発足し,剣道・野球などの課外活動が行われた.また,サンターナ分校設立は多言語・多国籍教育の環境を生み出し,教育事業の多角化をもたらした.こうして小林と義塾は,ブラジルの日系移民子弟教育において重要な地歩を占めることになる.This study discusses the characteristics of the Seishu Gijuku, as well as its and its impact on the overall education of the Japanese–Brazilian Nisei in the early 1930s. During this period, the headmaster of the institution, Midori Kobayashi, undertook a number of fundamental reforms, including the establishment of self-sustaining management, the reshuffling of teachers, and the separation of the school from the affiliated church organization. As part of those reforms, a student organization called Jukuseikai was established; its student members enjoyed kendo (Japanese fencing) and baseball, among other activities. Furthermore, a multilingual and multinational education was offered at a branch school in Santa Ana, allowing Seishu Gijuku's educational offering to become diversified and thus contribute overall to improvements in the education of Japanese–Brazilian Nisei children.論説(Article)
著者
西村 卓 Takashi Nishimura
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.170-107, 2014-07-20

本稿では、京都市上京区東魚屋町で豆腐製造と行商を家業とする入山音治郎という人物の書き残した1938年の「家計日誌」をもとに、日中戦争期の「高揚」のなか、京都市中の一家族がどのような生活をおくっていたかを明らかにした。それは、戦争をただの戦史や国家史の流れのなかでのみ捉えるのでなく、「生きる」、「楽しむ」、「交流する」、「支える」という日常の家族と地域コミュニティの側から見据えることでもある。そこにこそ戦争のリアリティが存在することを銘記したい。
著者
和田 応樹 Masaki Wada
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.635-690, 2011-03-20

20世紀初頭に、イギリス軍最大の植民地インドにおいて、インド軍総司令官キッチナーにより大規模な軍制改革が行われた。彼はエジプト、スーダンや南アフリカなどの海外植民地で豊富な経験を積み、広い視野を持った歴戦の軍人であった。改革により、参謀制度などの新しいシステムが導入され、インド軍は近代的な軍隊へと変化した。その過程では、インド総督ミントーも重要な役割を果たし、改革は本国政府とインド政庁間のインド支配と密接に関わるものであり、そこからは帝国主義期イギリスの実相を垣間見ることができる。
著者
東 良彰 Yoshiaki Azuma
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.675-712, 2018-03-20

本稿では、Eggertsson and Mehrotra(2014)の世代重複モデルを中心に、長期停滞に関連する文献や理論を整理し、日本の長引くデフレ不況について考察する。本稿で特に着目したいのは人口動態の変化がもたらす影響である。またデフレ不況と流動性の罠から抜け出すために必要な政策についても整理する。
著者
鹿野 嘉昭 Yoshiaki Shikano
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.159-186, 2007-09-20

江戸時代の日本では、藩札という事実上の不換紙幣が地方所在の大名領国における日常の交換手段として広く普及していた。この藩札の流通状況に関しては、その大部分は濫発とともに幕末にかけて価値が大きく下落し、領民の生活に悪影響を及ぼしたとされることが多い。仮にそうだったとした場合、明治政府が発行する不換紙幣を誰もが喜んで交換手段として受け入れたとは考え難い。しかし、明治通宝という政府不換紙幣がすんなりと受け入れられたほか、藩札と新貨幣との交換も順調に進んだのである。本稿は、藩札濫発論に問題があるのではないかという視点から、明治初年に作成された各種の資料などを利用して江戸後期における藩札発行高の推移を独自に推計のうえ、貨幣論の立場から改めて藩札濫発論の妥当性について検討しようとするものである。その結果、藩札濫発論あるいは価値下落論のいずれとも支持されえなかった。だからといって、藩札の増発自体を否定するものではない。むしろ、藩札の増発は、徳川幕府が万延の改鋳後に財政赤字補填を目的として採用した通貨増発政策、それに伴って生じた銀相場の大幅な下落や国内一般物価の騰貴に起因するものと観念される。
著者
鹿野 嘉昭 Yoshiaki Shikano
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1-2, pp.35-79, 2010-09-20

本稿は、明治初年に実施された旧藩札と新貨との交換(藩札整理)の実態について数量分析の立場から明らかにすることを狙いとしており、次のような興味深い事実を見出した。藩札の新貨との交換価格は各地における金銀銭相場を基準にして全国一律のルールにしたがって藩ごとに個別に決定されたが、届相場が九六銭12貫500文以下となった諸藩発行の銭札・銀札については、全国一律に1貫文8銭あるいは100文当たり8厘、市場実勢との比較において2~3割ほど割安な水準で新貨に交換された。明治政府が承継した藩札債務は3855万円から最終的には2493万円に更生減額されたが、その8割は先に掲げた交換価格の設定方法に由来する。そうであるがゆえに、大蔵省としても「官吏を派遣し精密な調査を行った結果、諸藩から報告のあった藩札の流通価格が大きく減額されたため」としか説明できなかったのであろう。
著者
小野塚 佳光 Yoshimitsu Onozuka
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.1-49, 2006-12-20

本稿は、2001年末のアルゼンチン危機を、国際政治経済学の基本命題を意識して、多角的に理解する。通貨危機の重要な条件は、経済学から見て、兌換制と財政赤字であった。しかし危機に至る過程では、さまざまな選択肢や矛盾した要求、社会運動があった。それらを結びつける制度やイデオロギー、指導的役割を担った個人は重要な影響を与えた。アメリカやIMF、国際社会には危機を回避する十分な合意や政治的意志を欠いていた。
著者
船橋 恒裕
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
経済学論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.439-452, 2008-03

医療サービス同様、介護サービスについても、地域間に大きな格差があるといわれている。そこで、本稿では、近畿地方において、介護費用におよぼす要因を明らかにし、地域において特徴や大きな違いがあるのかを示したい。結論として、介護保険における回帰分析から、全ての府県で、「老年人口」が介護費用の増加に大きくかかわっていることが示された。その他、「介護給付件数」と「高齢者世帯」が、医療費に影響を与えることが判明した。論説(Article)
著者
木山 実
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
経済学論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.1312-1282, 2013-03

明治9年に設立された三井物産は、先収会社と三井組国産方という2つの源流が合流して成り立つものであった。本稿は、その源流の1つである先収会社および草創期三井物産には、どのような人材が勤務していたのかを明らかにしたものである。本稿では、先収会社には従来想定されていたよりも多くの人員が勤務していたこと、また先収会社時代から慶応義塾出身者が何人か雇用されていたことを示した。義塾で近代的な西洋式簿記や外国語の知識を身につけた彼らは、貿易商社たる三井物産の基礎を構築するのに貢献したと考えられるのである。論説(Article)
著者
上ノ山 賢一
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
経済学論叢 (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.575-593, 2012-03

本稿は内生成長を伴う世代重複モデルを用いて、習慣形成が貨幣供給率の変化による経済成長率の変化に対してどのような影響をもたらすのかを分析した。その結果、均衡が一意に決定する場合には、貨幣成長率の上昇は、内生成長率を低下させることが示された。その一方、均衡が複数となる場合には、高成長率となる均衡はサンスポット均衡となり、貨幣成長率の上昇が内生成長率を上昇させるが、低成長均衡では低下させる可能性があることが明らかとなった。研究ノート(Note)
著者
三俣 延子 Nobuko Mitsumata
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.259-282, 2008-09-20

主として編纂物に所収される歴史資料を分析することにより、近世京都における屎尿肥料取引の実態を解明し、エントロピー論や物質循環論にもとづいて考察する。分析の結果、都市から近郊農村への屎尿肥料の供給は主として金銭を介しての売買によるものであったことが判明する。これを「屎尿経済」と定義するとともに、この金銭を介した経済活動が増大したエントロピーの処分を行いながら物質循環を活発化させる経済循環として機能し、持続可能な社会の実現に大きな役割を果したことを述べる。
著者
三俣 延子 Nobuko Mitsumata
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.173-193, 2009-07-20

本稿は、江戸時代の京都と比較しながら、18-19世紀のイングランド・リバプールで展開されたナイトソイル・エコノミーの歴史を分析する。なお、ナイトソイル・エコノミーとは、都市が供給した人の排泄物が金銭的取引によって農村で肥料として需要されるという、物質循環を活発化させる経済活動のひとつである。結論として、リバプールでは、自治体がナイトソイル・エコノミーの構築に大きな役割を果たしたことが明らかになる。
著者
末永 國紀 Kunitoshi Suenaga Kunitoshi Suyenaga
出版者
同志社大學經濟學會
雑誌
經濟學論叢 = Keizaigaku-Ronso (The Doshisha University economic review) (ISSN:03873021)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.1-56, 2006-03-20

本稿の目的は、第二次大戦前のヴァンクーヴァー市における日系人のビジネス活動を分析することである。利用した資料は、カナダ日本人会によって1938年に行われたカナダ在留日本人のセンサスである。1038人がビジネスに従事していた。日系人の居住地は、パウエル通りを中心にジャパンタウンが形成されていたが、ヨーロッパ系住民との混在地域にも広がっていた。営業の種類は、日系人の日常生活に必要な商品やサービスが多く、事業の従事者には滋賀県出身者が圧倒的多数を占めていた。