著者
石川 義之 イシカワ ヨシユキ Yoshiyuki ISHIKAWA
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要
巻号頁・発行日
vol.4, pp.105-127, 2005-01-31

この論文は、A県在住の男女を対象に実施したドメスティック・バイオレンスの調査データを統計的に解析したものである。統計解析は、女性調査と男性調査の2つがある中で、男性調査を中心に行われた。 分析によると、女性のDV被害経験率は男性のそれに比して顕著に高い。また、男性のDV加害経験率は女性のそれよりも高い。以上から、ドメスティック・バイオレンスは、事実上、男性から女性に対して向けられた暴力行為を指す現象であると捉えることができる。ただし、女性のDV被害経験率と男性のDV加害経験率との比較から、男性は自らの行ったDV加害行動の多くをそれとして自覚していないことが知られる。 無自覚的行為を含む男性のDV加害諸行為(DV加害経験)を規定する基礎要因を統計解析によって探った。この点に関して、以下のことが明らかとなった。 1.男性のDV加害経験と男性の現在の年齢 : 比較的に年齢の高い層のほうが低い層よりも男性のDV加害経験率が統計的に有意に高い。 2.男性のDV加害経験と男性の現在の仕事 : 男性の現在の仕事が「家族従業者」である場合男性のDV加害経験率は最も高く、「勤め人」である場合それが最も低い。 3.男性のDV加害経験と男性の現在の雇用形態(「勤め人」の場合): 男性の現在の雇用形態が「パートタイム、アルバイト、嘱託、臨時など」の非正規労働である場合のほうが「正社員、正職員」という正規労働である場合よりも男性のDV加害経験率は高い。 4.男性のDV加害経験と現在の同居家族の状況 : 「3世代以上の家族」に所属する男性においてDV加害経験率が最も高く、「同居家族なし」の単身男性においてそれが最も低かった。 5.男性のDV加害経験と現在の居住地域 : 居住地域による男性のDV加害経験率に統計的な有意差は認められなかった。このことは、DVが都市化現象であるとする見方に対する反証となる。 6.男性のDV加害経験と現在の家族の経済状況 : 「下」の経済階層に帰属する男性のDV加害経験率が最も高く、「上」の経済階層に帰属する男性のそれが最も低かった。 7.男性のDV加害経験と現在の妻(パートナー)の年齢 : 相対的に高年齢層に属する妻(パートナー)を持つ男性のほうが低年齢層に属する妻(パートナー)を持つ男性よりもDV加害経験率が高かった。 8.男性のDV加害経験と妻(パートナー)の現在の仕事 : (1)妻(パートナー)の現在の仕事が「家族従業者」である場合において男性のDV加害経験率が最も高く、「自営業主」である場合にそれが最も低い。(2)妻(パートナー)の現在の仕事が「雇用労働者」である場合と「家事専業」である場合とを比較すると、「雇用労働者」である場合のほうが男性のDV加害化率が高かった。 9.男性のDV加害経験とと妻(パートナー)の現在の雇用形態(「勤め人」の場合): 妻(パートナー)の 現在の雇用形態が「パートタイム、アルバイト、嘱託、臨時など」の非正規労働である場合のほうが「正社員、正職員」という正規労働である場合よりも男性のDV加害化率は高い。 10.男性のDV加害経験と妻及び夫の教育歴(学歴): 男性のDV加害経験率が最も高かったのは教育歴が「妻のほうが夫よりも長い」場合で、次いで「両者の教育歴はほぼ同じくらい」、「夫のほうが妻よりも長い」場合は最も低率となっている。 11.男性のDV加害経験と現在の回答者(夫)の家族の収入や家計の状況 : 夫・妻の「両者の収入はほぼ同じ」場合において男性のDV加害経験率は最も高く、次いで「妻の収入のほうが夫よりも多い」、「夫の収入のほうが妻よりも多い」場合にはそれが最も低くなっている。
著者
石川 義之 Yoshiyuki ISHIKAWA
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-35, 2008-01-31

本稿では,身体的虐待を中心に,子ども虐待の基礎理論を展開する。基礎理論の構築は,子ど も虐待への対応において重要な役割を果たすであろう。主な内容は,以下のとおりである。
著者
石川 義之 Yoshiyuki ISHIKAWA
雑誌
大阪樟蔭女子大学人間科学研究紀要
巻号頁・発行日
vol.8, pp.1-24, 2009-01-31

本稿は. r人間科学研究紀要Jl 7 号に掲載した小論の続編である。111 身体的虐待の危険因子」 では,個人の精神病理,親子関係,家族の環境,状況的・社会的な条件に関連した危険因子について 考察する。112. 身体的虐待への対応」では,子どもの保護,心理的な治療,地域による介入について 言及する。113. まとめ」では,展開された身体的虐待の基礎理論の骨子を要約する。前編を含め本論 文は,子ども虐待への対策は子ども虐待ついての確かな理論を踏まえて策定されなければ,実効ある 対策とはなり得ないという仮説の上に立って執筆されている。This paper is a sequel of my paper "the Basic Theory of Child Abuse: with special reference to Child Physical Abuse," The Humαn Science Reseαrch Bulletin 01 Osαhα Shoin Women 's University,7: 1-35. The section 11 "Risk Factors associated with Child Physical Abuse" treats of factors associated with individual pathology,factors associated with the parent-child relationship,factors associated with family environment,and factors associ­ ated with situational and societal conditions. The section 12 "Response to Child Physical Abuse" refers to protection of children at risk, psychological treatment for physical abusive adults and children with physical abuse histories, family interventions, and community interventions. The section 13 "Summary" describes the main points of thebasic theory developed of Child Physical Abuse. This paper which includes Part 1 is on the assumption that intervention and prevention strategies for child abuse cannot be effective without being based on certain theories of child abuse.
著者
石川 義之 イシカワ ヨシユキ Yoshiyuki ISHIKAWA
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要
巻号頁・発行日
vol.2, pp.205-213, 2012-01-31

われわれは、2008年に1009名の男女(有効回答数750名)を対象に、「ジェンダーに関するアンケート」を実施した。本稿では、このアンケート調査結果を踏まえて、ドメスティック・バイオレンスの見聞、身体的虐待、性的虐待、ドメスティック・バイオレンス、セクシュアル・ハラスメントという5種の人権侵害被害の現状を分析する。第1に、それぞれの人権侵害被害ごとにその普及率や相談の有無などについて分析する。第2に、これらの5種の人権侵害被害を包括した全体についての総合的考察を行う。ここでは、人権侵害被害全体が性別、年齢などのデモグラフィックな要因とどのような関係にあるのか、また家庭の貧困や家庭・職場でのストレスとどのように関連しているかなどが検討される。人権侵害被害の総合的全体分析を試みた点に本稿の独自性が見出せるであろう。