著者
van LAAK Lothar ファン・ラーク ローター
出版者
19世紀学学会
雑誌
19世紀学研究 (ISSN:18827578)
巻号頁・発行日
no.6, pp.163-171, 2012-03

アネッテ・フォン・ドロステ=ヒュルスホフの詩集『荒野風景』に所収の詩「泥炭岩の坑」は、人間が自然のなかでどういう位置を占めているかという問いを投げかけている。この問いは、神学的な、知の歴史に関する、そして美学的な側面を含んでいる。伝統的な古い知(神話学と神学)と近代的知(地質学や生物学などの自然科学知)は共に自然の内的経験を素通りしてしまうのに対して、文学的かつ美的に展開する構想力の人類学的な力は、自然への扉を開くことができる。とはいえ、宗教的あるいは科学的な世界記述とその経験は、根本的に否定されるのではなく、 像 を創造しそれに形姿を与える構想力のプロセスのなかで統合されるのだ。イメージドロステ=ヒュルスホフは、カントが区別する再生産的構想力と生産的構想力の次元を再び結合する。〔すなわち〕彼女は、一方において、カントが再生産的構想力にしか分類しなかった夢を再評価する。彼女は他方でまた、近代的科学を基本的に承認し、ユーモアに満ちた調子で詩を終わらせることによって、夢を相対化する。このように、「泥炭岩の坑」は、夢と知、ポエジーと科学、宗教と現実の間に新たな平衡を生み出すことによって、ロマン派的傾向と写実主義的傾向の間にあって、19世紀の文学史に占める彼女の位置、彼女の写実主義が持つロマン派的性格、そして文学と知の新しい関係をより正確に規定する美学的な自己省察への寄与としても読むことができるのである。