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『むぢなの敵討』(ルビ=かたきうち、なお「敵」は字が違う) 赤小本。現在確認できる「赤小本」は2点か3点しか存在せず、そのうちの1点。改装だが題簽が残っている。昔話「かちかち山」の古い形。主人公「狢(むじな)」は狸の誤称であり、前半の話を題名にしているのが古風。題名左の小書き「うさぎのちりく」は「兎の知略」で後半の話を示し、全体としては、のちに「兎大手柄」さらには「かちかち山」と呼ばれる話となる。山で畑打ちする爺に婆が持ってきた昼飯の団子を爺が箸で挟むとむぢなの穴に落ち、勿体ないので穴を掘り返すと、大きな古むぢなを掘り出す。この発端は「鼠の浄土」と同型である。爺はこのむぢなの四足を縛って婆に家へ持たせる。婆がむぢなを天井に吊し臼で粟を搗いていると、むぢなが「わたしが搗きましょう」と言うので婆は縄を解く。むぢなは「搗きこぼしたら互いに拾いましょう」と約束し、わざとこぼして婆が拾うところを手杵で搗き、婆を殺して汁に炊き、婆の布団をかぶって寝たまま、帰った爺に「むぢな汁を煮ておきました。わたしは病気で起きられません。」と爺に十分食べさせて躍り出、駆け出して「婆食らいの爺め、かま」と途中で終わる。題簽にある「うさぎのちりく」は欠けている。現在この一点しか存在せず、後半を確認することはできない。後半について推定すると、現在実質5丁なので、後ろ見返しの半丁分に続きがあって前半が終わり、2冊物だったか、または、さらに5丁続いて全10丁となり後半の話まで終わるのであろう。絵は、盤切の団子と爺婆、むぢなを捕らえる、吊されたむぢなと粟を搗く婆、粟を拾う婆と杵を振り上げるむぢな、むぢな汁と思って婆汁を食う爺の5場面。版の様式は、絵の上部を二重の雲形で仕切り、文がある。文字と絵が醸す古拙な味は他に類がないが、古くなされた覆刻との見方もある。角書の「本年/四ツ切」は「今年の四ツ切本」の意味であろう。約13.0cm×9.0cmで、美濃半紙を四ツ切にした寸法の紙を1丁とし、二つに折った形に相当する。(木村八重子)