- 著者
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王 茜茜
- 出版者
- 三重大学
- 巻号頁・発行日
- 2016-01-01
フィラーはコミュニケーションにおいて大きな役割を果たしているが、その機能について未だに明らかにされたとは言えないため、日本語教育においても日本語学習者へのフィラーの指導は、個別の場面での機能を指摘する断片的なものに留まっているということは先行研究において指摘されている。また、「アノー」と「エート」は日常生活でよく使われるが、二語の意味が似ているため、二語を使い分けることが難しいという声をよく耳にする。そこで、本研究では日本語教育に貢献するために、「アノー」と「エート」に焦点を当てて、従来のフィラー研究では分析対象とされてこなかったゼミナールというややフォーマルなスタイルの自然談話におけるフィラーの使用実態を解明し、その機能について考察した。まず、ゼミナールの発言を「原稿説明時」と「質疑応答時」に分けて、「男女の使用差」と「日本語母語話者と中国人日本語学習者の使用差」の視点から、量的な面からフィラーの使用実態を考察した。その結果、フィラーの使用にはある程度の男女差が確認できた上、「原稿説明時」の場合は「エート型」が、「質疑応答時」の場合は「アノ系」が多用されているということが確認できた。さらに、中国人日本語学習者に多用されるフィラーは中国語にもそれらに対応するフィラーが存在するということも分かった。次に、質的な面からフィラーについての考察において、ゼミナールの参加者の「役割」とフィラーの「出現位置」という二つの視点からフィラーの機能について分析を行った。結果として、フィラーは「役割」と「出現位置」によって機能が変わってくるということが確認できた。なお、中国人日本語学習者に多用されるフィラーの機能には、言葉や文を「ぼかす」機能があるということも確認された。最後に、「アノー」と「エート」のそれぞれの使用環境について考察し比較した結果、「アノー」は「エート」より対人的機能が強く、独り言では使いにくいということを、量的な結果をもって示すことができた。また、「①『アノー』は『形式検索』の時に、『エート』は『内容検索』の時に多用される」、「②『エート』は難しさを感じた場合、その主張を受け手に示す機能を持っているが、『アノー』にはその機能を持っていない」という二点は従来の研究で指摘されていたが、本研究では実際の用例を用いて考察した結果、それらを裏付ける結果が確認された。