著者
葛西 敦子
巻号頁・発行日
2008-12

現在通常の小・中学校では、小児慢性特定疾患児のうち約85%の児童生徒が在籍しており、医療的管理や看護的ケアを必要とする子どもが増加している。その背景には、平成14 年4 月の就学基準の見直しにより、病気により特別の配慮を必要とする子どもが、一般の小・中学校にも入学できるようになったことが挙げられる。そのため養護教諭には専門的な立場からの支援への期待が寄せられている。また「特別支援教育」が打ち出されたことから、養護教諭には今以上に慢性疾患の子どもに対して一人一人の教育的ニーズを把握したうえで、医療的管理や看護的ケアなどの健康管理支援が求められる。しかし養護教諭の現状は、いじめ、不登校、保健室登校、生活習慣病の徴候、薬物乱用、性の逸脱行動等の問題を抱えた子どもたちへの対応のために、多忙を極めている。そのため、慢性疾患の子ども一人一人の教育的ニーズを把握しての支援の展開に困難な状況が見受けられる。養護教諭が行う慢性疾患の子どもへの支援においては、疾患の種類・重症度、子どもの発育発達段階などの様々な背景を考慮した個別のニーズへの対応が重要であることはいうまでもない。しかし、第一義的には、いずれの子どもに対しても実践すべき共通の支援を実践することが必須と考える。この共通の支援については概念的に捉えた研究は見あたらず、それを構造的にモデルとして示したものも見受けられない。本研究の最終目的は、養護教諭の「慢性疾患の子どもへの支援」に共通する因果的構造モデルを構築することである。そこで、『学校における慢性疾患の子どもたち』、『「特別支援教育」における慢性疾患の子どもへの支援』、『慢性疾患の子ども支援における養護教諭の役割』、『養護教諭の「慢性疾患の子どもへの支援」に関する文献レビュー』を各章の課題とし、それぞれを概観し、その現状と課題をまとめた。その上で、仮説『養護教諭の「慢性疾患の子どもへの支援」は、直接的支援と間接的支援で構成され、その実践が養護教諭自身の支援に対する満足度に影響を及ぼす』を設定し、養護教諭への質問紙調査法を実施し、共分散構造分析した。その結果、養護教諭の「慢性疾患の子どもへの支援」に関する因果的構造モデルを構築し、以下のような知見を得た。(1)潜在変数《直接的支援》では観測変数〈健康管理支援〉、〈教育的支援〉、〈慢性疾患の子どもへの配慮〉の順に、潜在変数《間接的支援》では観測変数〈家族・その他機関との連携〉、〈学校内の連携〉、〈学校外との連携〉、〈周囲の子どもへの指導〉の順に影響を受けていた。(2)〈教育的支援〉と〈周囲の子どもへの指導〉、〈健康管理支援〉と〈学校外との連携〉との誤差変数間、および《直接的支援》と《間接的支援》との潜在変数間に、共分散関係が認められ、それぞれ関連づけて支援することが重要であることが示唆された。(3)『養護教諭の「慢性疾患の子どもへの支援」は、直接的支援と間接的支援で構成され、その実践が養護教諭自身の支援に対する満足度に影響を及ぼす』ことが検証された。以上より、本モデルは、養護教諭の「慢性疾患の子どもへの支援」の因果的構造を示すものであり、適合度指標の判定ではモデルとしての評価は高いものであった。このモデルに沿った養護実践が、有効な支援となるものである。

言及状況

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①小児慢性特定疾患に関する対策・現行法制度・課題に関わる論文および文献がほしい。 ②疾患等をかかえた子供の受け入れ拒否の事例がほしい。

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