著者
水戸 博道
出版者
明治学院大学心理学部
雑誌
明治学院大学心理学紀要 = Meiji Gakuin University bulletin of psychology (ISSN:18802494)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.69-80, 2017-03-08

本研究は、移調楽器の学習者がどのように音楽的音高の言語的符号化をおこなっているか、その多様性に注目し、実態を明らかにした。調査は符号化の多様な事例を明確にしていくことを目的とし、10名の移調楽器学習者が、実際の音楽活動の場で、どのように音高の符号化をおこなっているのかを、インタビューと歌唱テストによって調査した。また、異なる符号化の事例が、絶対音感などの音感とどのような関係にあるのかを検討するために、すべての参加者に絶対音感テストを実施し、その成績と符号化の方略の関連に関しても、個別に考察していった。考察の結果、ほとんどの参加者は、なんらかの形で音高の符号化をおこなっているが、音感の違いや演奏する楽器によって、符号化の運用の方略は同一ではないことが浮かび上がった。非常に正確な絶対音感をもっている者は、移調楽器を演奏する時でも、移調譜に基づいて音高を符号化して聴くことが難しいことがわかった。一方で、絶対音感をもっていない者に加え、ある程度の絶対音感をもっている者は、移調譜の音名で符号化ができている参加者もいることがわかった。これらの結果より、音高の符号化は、必ずしも絶対音感などに縛られたものではなく、複数の符号化システムを併用していくことも可能であることが示唆された。

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