著者
立花 楓子
出版者
首都大学東京
巻号頁・発行日
pp.1-88, 2018-03-25

本論文は、研究の背景と目的を述べた序、駅についての基本的な分類を行った第1章、国内外における鉄道・駅の通史をまとめた第2章、本論文で扱う近年の国内駅舎についてその傾向と問題点を明らかにした第3章、駅舎事例について分析・考察を行う第4章、以上の総括を行う結から構成される。第1章では駅の定義や分類の作成など、今後の分析に必要な概念の整理を行った。一般的な駅空間の定義を確認した上で、本論文で取り扱う「駅舎」を駅ビルなどの商業的用途が主となる建物を除き、駅務機能が集中している建物のみとして定義した。また駅舎について規模・立地・構造の3視点から分類を行うことで第4章において分析を行う駅舎事例の位置付けを明確にした。また既往研究を掲載し、本論文独自の視点を示した。第2章では駅舎と鉄道の通史について整理し、駅舎の役割やそのデザインの変遷を国内外に分けてまとめることで、国内外での駅舎設計に対する位置付けの差異を明確にした。国外では19世紀にイギリスで初めて鉄道が開通して以降、鉄道と駅舎は近代化の象徴とされ、オーダーや大きなトレインシェッドを有するモニュメンタルな駅舎が多く設計された。モダニズム建築の台頭や鉄道技術の埋没から次第にその特徴はなくなったが、現在でも国内外の建築家を起用した新築大規模駅舎の建設や既存駅舎の保存改修が活発に行われている。また都市形成に少し遅れて鉄道が発展したため、ターミナル駅が大都市の周縁に位置し、都市内はトラム・地下鉄によって移動する仕組みが形成された。一方海外諸国と比べ大幅に遅れて鉄道技術が輸入された日本では、鉄道をあくまで近代化の手段として捉え、必要最低限の設備での早期普及を目指した。日本での鉄道の発展は都市化と同時期であったため、鉄道を中心として都市が形成された。第3章では近年の日本での鉄道事業・駅舎の傾向である「駅ビル」「駅舎コンペ」「クルーズトレイン事業」「駅とまちづくり」「駅舎リニューアル」の5つのトピックから駅舎への要求とそのデザインについての考察を行った。第2章で明らかになった日本の駅舎に対する考え方は結果として均一で個性のない駅舎が量産される原因となった。しかし近年、ただの移動手段であった鉄道は乗る体験としての新たな価値を、駅舎は街の中での顔としての役割を持ち始めた。こうした傾向に伴い駅舎にはその土地ならではの個性である「地域性」が求められるようになった。第4章では第3章をもとに駅舎の地域性に着目し、34事例について作品分析を行った。事例の設計「主題」について、地域のシンボル・ランドマークになることを目指した【地域ランドマーク型】、地区再生を 担うなど地域に対し何かしらの働きかけをするものを【機能提供型】、駅舎でその地域を表現しようとする【地域表現型】、地域は関係なしに建築のあり方に主題をおく【建築的主題型】の4つに大別した。更に設計時参考にした地域の要素である「参照要素」として、海や山といった地域の【自然環境】、歴史や産業などの【文化】、街並みや市民のニーズといった【都市】、【なし】の4つを抽出した。また主題を実現する際に「参照要素」をもとにして実際に行われた建築的操作を「表現手法」とし、作用する建築部位と共に抽出を行った。第1章で行った構造的な分類ごとに駅舎の「主題」と「参照要素」との関係性を整理し、具体的な作品の分析を踏まえてその特徴を明らかにした。また、「参照要素」と「表現手法」に着目し、地域性表出の具体的操作の傾向を明らかにした。結では、本論文の総括と展望を示す。駅舎に対するニーズの変化から駅のあり方はより地域に沿ったものへと変化しつつある。本論文では駅舎に地域性を持たせる手段の一つとして建築的主題の捉え方とそれに基づく設計手法を示した。

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