- 著者
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菅沼 若菜
- 出版者
- 首都大学東京・都立大学社会学研究会
- 雑誌
- 社会学論考
- 巻号頁・発行日
- vol.40, pp.69-92, 2019-12-10
本稿の目的は,アートを政策的に活用した場合,地域とのつながりとアートの公共性との関連をどのような形で見出すことが出来るかを考察することである.その事例として横浜の黄金町を取り上げ,違法風俗業者を一掃し,「アートのまち」としての再生から約10年経った現在の状況に着目する.黄金町の事例から得られた知見は,以下の点である.第1に,「アートのまち」として再生したことによる,まちの治安の改善とそれに付随する子どもの増加がアートを導入したことによる成果である.第2に,地域から必要とされるアートの実践が今後の課題となる点である.また,行政資料や住民へのインタビュー結果から明らかになったのは,「アートのまち」に対する行政と住民両者の間に見解の相違が見られた点である.第3に,こうした課題を克服するためには,「アートのまち」から何か経済活動が生まれる等,アートと協働してまちが経済的に活性化することや,住民とアーティストの距離感を克服し,両者の協働が生まれることが必要であることが明らかになった.創造都市政策の一環として環境浄化を目的に用いられたアートの役割は,その目的が達成されて終わるのではなく,アートを住民主体のイベントや地域資源と絡めることで,地域の住民や地域に開かれたアートの公共性のかたちを見出す可能性があることが明らかになった.