- 著者
-
宮下 弘美
- 出版者
- 北海道大学大学院経済学研究科地域経済経営ネットワーク研究センター
- 雑誌
- 地域経済経営ネットワーク研究センター年報 (ISSN:21869359)
- 巻号頁・発行日
- vol.6, pp.145-166, 2017-03-29
2016年11月に,北海道旅客鉄道株式会社(JR 北海道)は,現行の運行在来線25線区のほぼ5割に相当する13線区を単独では経営が維持できないと公表した。「路線の見直し」によって,JR北海道の経営難は解決するのであろうか。本稿では,第1に明治以降の広軌改築か新線増設かという二つの大きな鉄道政策の流れの中で,戦後の国鉄を位置づけなおし,第2に北海道の鉄道輸送の特徴点を明らかにし,今後の鉄道維持の方向性について考察しようとするものである。前者からは,輸送力の改善が進まない中で高度成長をむかえた国鉄が,第3次長期計画での資金調達スキームに失敗して巨額の債務をかかえ,1980年以降に特定地方交通線をバスや第3セクターに転換していったものの,結局37.1兆円の債務がJR各社や国民に引き継がれていったことが明らかになる。JR北海道の経営難は,経営安定基金の運用益の減少が直接的な原因であり,それは歴史的に生み出されたといえた。後者についても,課題は残されているが,1965年度には,東海道線に収益が集約され,北海道では貨物輸送の割合が高いことがうかがえる。「路線の見直し」には,道内の鉄道が長年かけて敷設されてきた道民の財産であることを出発点にし,長期的,全国的な視野からの慎重な対応が求められるように思われる。