著者
佐藤 弘喜
巻号頁・発行日
2004

序論, 第1章, 研究の背景と動機, デザインや美術作品に対する印象を人間がどのように評価するかという研究は、これまでにも様々な対象物に関して行われてきたが、その方法論において、対象となる造形物を人間がどのように見ているかという条件は考慮されていない。しかし同一の対象であっても見る側の見方が異なれば、それによって感性評価の結果も異なるものになるのではないかという予測が成り立つ。そしてデザインを見るという行為について明らかにすることは、デザイン行為の有効な手がかりになるに違いないと考えた。そうした認識に立ち、デザイン行為とその対象を見ること、そして見ることの結果として発生する感性評価の関係を明らかにすることを目指して開始した。第2章, 研究の目的と意義, 本研究は従来のデザイン評価、感性評価に関する研究領域に対して、視覚認知構造概念を導入することの有効性と意義を提案しようとするものである。したがって本研究は、上記の視覚認知的な働きに関する仮説を検証し、デザインに対する視覚認知の構造の一端を明らかにするとともに、明らかになった視覚認知的な知識をデザイン評価および感性評価研究の有効な手がかりとして活用することを目的とする。第3章, 研究の方法と構成, 本論文では、はじめに理論的研究として視覚認知、デザイン支援、感性評価、文様デザインなどについて論じ、本研究の提案につながる仮説を、文献および他の研究事例の検討や概念的な考察によって導き出す。そこで得た仮説をもとに、本研究の目的に従って実験的研究を行う。第1に、文様に対する複数の視覚認知パターンを実験結果の解析によって抽出し、文様に対して複数の見方が存在していることを確認する。第2 に文様に対する造形的な特徴評価と、上記の実験で得られる視覚認知パターンに対する印象評価を解析し、文様に対する視覚認知パターンと造形的特徴の結びつきを明らかにする。そして第3に、文様デザインに対する選好評価を行って視覚認知パターンとの関係を解析し、どのような見方が文様デザインの選好と結びついているのかを明らかにする。第4として、上記で得られた視覚認知パターンを利用した文様デザインデータベースの構築を行い、得られた知識によって文様の分類と検索という、デザイン支援のための応用が可能であることを示す。そして第5 に、構築するデータベースの検索システムを用いて文様の検索評価実験を行い、感性評価との関係を調査する。最後に、解析的方法によって調査を行い、その結果から視覚認知パターンの性質と相互関係について考察する。以上の理論的研究および実験的研究によって得られた結果を集約し、本研究が提案するデザイン評価および感性評価研究における視覚認知構造概念の導入の有効性を示す。第4章, 先行研究と本研究の位置付け, 本研究は第1にデザインに関する研究である。第2にデザインが視覚によってどのように認知されるかを明らかにしようとする視覚認知に関する研究である。また第3に感性工学の研究領域に属するものである。第4に文様に関する研究である。文様デザインがどのように視覚的に認知され、その結果としてどのように評価されるかを研究する。そしてデザイン支援の領域を扱う。デザイン学とそれぞれの研究の関係領域には、概念的に近いものや扱っている対象が近いもの、また方法論が近いものなどの事例は見られるが、本研究の位置付けであるデザイン学を基盤として認知科学、心理学、文様学、感性工学の各領域が交差する点に同様の研究事例は見られない。本研究はこうした点で新たな研究の位置と意義を持つものである。

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デザインの評価における視覚認知構造概念の導入に関する研究 筑波大学大学院 芸術学研究科 佐藤 弘喜 https://t.co/Ind7XmM87D

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