著者
松田 時彦
出版者
東京大学地震研究所
雑誌
東京大學地震研究所彙報 = Bulletin of the Earthquake Research Institute, University of Tokyo (ISSN:00408972)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.537-550, 1967-08-25

松代地震の進展につれて松代町東部に地震断層の性格をもつた横ずれ地割れ群があらわれたので,その地割れ付近および周辺山地の地質を調べた. 1.調査地域内には,変位量数km以上の既存の大断層は存在しない.とくに今回あらわれた横ずれ地割れ群に沿つては,変位量数m程度の既存の小断層も見出せなかつた. 2.今回の地震であらわれた個々の地割れに沿つても,また,地割れ地帯に沿つても,最近地質時代に同様の変位が生じた形跡(地形的証拠)は見出されない. 3.鮮新世中期以降変位したことのない地質断層(滝本東断層)が地割れ帯に近接して存在するが,それに沿つては今回の地震で地割れは1つもあらわれなかった. 4.既存の断層に沿つて,断層性の変位が生じたたしかな例が1つだけみつかつたが,その断層は主な地割れ地帯からはなれているし,断層面のむきも変位のむきも特異である.松代地震における上記1.と2.の事実は,濃尾・北伊豆などの大地震に伴なつた地震断層の場合と全く異なつている.その意味で松代地震では従来いわれたような「古傷(大地質断層)の再活動」という表現は妥当でない.このような特異性と,松代地震が群発型であることを組合せると,大きな活断層が発達しない所(地質区)では群発地震の方が非群発型大地震よりもおこり易いらしいといえる.上記3の事実は,たとえ大断層があつても最近地質時代(この場合鮮新世中期以後)に変位を増加させた形跡のない断層は,今回のような地震の発生やそれに伴う変位に関与しないらしいという例になる.上記4の地震断層は,松代地震による直接の地震断層ではなくて,その周辺に生じた地盤の調整的変位の結果または地塊縁辺部での強い地震動の結果,地塊境界で生じた二次的変位(いわば間接的地震断層)であると思われる.

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