著者
人見 佳枝
出版者
近畿大学臨床心理センター
雑誌
近畿大学臨床心理センター紀要 = Bulletin of center for clinical psychology Kinki University
巻号頁・発行日
no.3, pp.49-59, 2010-10-01

[要約] 切腹は日本人が普遍的に心に抱いてきた、名誉を重んじる自死の象徴である。これは「死によって自己の最終責任を果たす」という日本人に共通の民俗のもとになったとされている。その象徴的な意味とその変遷について、主に千葉徳爾氏の著書を引用しつつ、腹部刺創による自殺企図患者について検討を行い、その共通点について論じた。腹部刺創における自殺企図患者においては、相手の目の前で企図する、企図後の精神科的援助を拒否することに特徴があり、これらは男性に顕著であった。これらは切腹が本来もっていた「誠意を示す」「分かってもらう」といった意味合いと共通点を示す一方、彼らなりの「男とはこうあるべき」という、いわゆるmachismoとの関連も伺われた。切腹と現代の腹部刺創を単純に比較することはもちろんできないが、民俗学的な見地からながめた場合、切腹の象徴的な意味は自殺企図全体に通底していており、腹部刺創も例外ではないものの、日本人の切腹に対して持つイメージが変わっていくにつれて減少していくのではないかと推察される。

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