著者
渡邉 勉
出版者
目白大学
雑誌
目白大学心理学研究 = Mejiro Journal of Psychology (ISSN:13497103)
巻号頁・発行日
no.14, pp.1-15, 2018-03-31

高村(旧姓,長沼)智恵子(1886~ 1938)は油絵画家として自立する志を抱き,『青鞜』創刊号表紙に凛とした女神を描いた。本論は彼女のその後をイメージの観点から臨床心理学的に考察した。彼女は彫刻家・詩人の高村光太郎(1883~ 1956)と出会い芸術家同士の新しい生活を始めたが,油絵制作の悩みや共棲の葛藤に直面していた時に,郷里の原家族が破産した。精神のバランスを崩し自殺を企て,その後統合失調症を発症した。入院後彼女は色紙の切抜きを日課にして,膨大な作品を残した。特に「蟹」は傑出していて自己イメージの投影が生じたようだ。光太郎は健やかな妻も病む妻も詩集『智恵子抄』に謳いあげた。賞賛も批判もあるが,誰も二人の生活のミステリアスな謎を解明することはできない。智恵子の死後,光太郎は十和田湖畔に二人の女性の裸像群を建てた。それは智恵子の面影を写していると評されたが,彼は完全に肯定していない。智恵子を賛美する自分を認識している,その自分の自覚を表現しているのかもしれない。いのちの最期に彼らが創出したイメージは,あたかも無意識に導き出されたかのように,それぞれの本来の資質を明らかにしているだけでなく,彼らの生涯を象徴している。智恵子の紙絵は,美しいものを求める執念だけでなく,ようやく自己の本来性を探り当てた喜びの表現でもあるに違いない。だからこそ光太郎ひとりにその秘かな楽しさを打ち明けたのではないか。

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智恵子の狂気を中心に、光太郎等彼女の周辺との関係を精神病理学の手つきで読み解いていく論文。面白かった。 https://t.co/c3RlJsDG0m

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