- 著者
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堀 朋平
- 出版者
- 国立音楽大学
- 雑誌
- 研究紀要 = Kunitachi College of Music journal (ISSN:02885492)
- 巻号頁・発行日
- vol.53, no.1, pp.187-198, 2019-03-29
ウィーン会議からカールスバート決議の間(1814-19年)には、若者たちの半ば秘密裏な団体が複数結成された。画家・文筆家・俳優たちが集うウィーンの「ナンセンス協会」(1817-18年)は、時事ネタやジョークをふんだんに織り交ぜた週刊誌『人間的ナンセンスのアーカイヴ』(全29編が現存)で知られる。シューベルトの関与を示す直接証拠はないが、協会のコード化(換喩やアナグラム等)に照らすと、作曲家の痕跡が数多く見出される。この種の――反証不可能な――痕跡をもとに音楽の意味やその成立背景をめぐって解釈を紡ぐことは「学問」の名に値しないという見解も道理である。いっぽうで「伝記的事実」は歴史的に揺らぎうるし、高尚でない話題を音楽学が抑圧してきた事実も否定できない。「ナンセンス協会」をめぐる学説の帰趨は、作曲家の生をいかに物語るか? という問題を考える試金石となるだろう。