- 著者
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井上 由扶
柿原 道喜
- 出版者
- 九州大学
- 雑誌
- 演習林集報 (ISSN:03760707)
- 巻号頁・発行日
- vol.9, pp.1-27, 1958-01
1956年2月27日,29日の両日,北九州一帯に稀有の降雪があり,冠雪荷重によつて多量の雪害木を生じた.雪害地域は福岡県の北部山地を中心とするかなり広範囲にわたつているが,被書量の大部分は粕屋演習林の所在地篠栗,久山両町附近に集中され,標高200〜700mにある壮齢以上のスギを主とする人工林が激害をうけている.同地域における被害当日の気象が,微風ないし無風状態のまま気温がO°〜-1℃内外にあつて多量の湿り雪を降らせ,冠雪の形成に適度の条件を具えていたためと考えられる.被害樹種はスギを主とし,ヒノキ,マツ,エンピツビャクシン,イヌマキ,モミ,ドイツトウヒ,タケ,広葉樹などであるが,被害総材積の89%はスギである.林分としての被害率はスギ,エンピツビャクシン,イスマギが高く,ことにスギは大面積にわたつて壊滅状態を呈したところも少くないが,ヒノキ,マツ,タケ,広葉樹などは一般に被害率の低い林分が多い.また今次雪害の一つの特徴は,利用期に達した壮齢林および老齢林に被害が大きく,しかも樹幹の挫折,割裂などの被害木が多かつたので,その被害額が甚大であつたことである.粕屋演習林全域の雪害林ならびに近接する猪野国有林のエンピツビャクシン被害につき,実態調査の結果を要約すれば次の通りである.(1)雪害木は林地の傾斜方位に関係なく,各方位ともにみられる.しかし,その被害率はスギ,ヒノキとも東および南方向が大きく,被害が激甚である.(2)傾斜面の上部,中部,下部にわけてスギ林の被害を調べたところ,谷筋は峯通りより本数被害率が大きく,幹折,梢折,曲りなどの被害が多いことが認められた.(3)林地の傾斜度と被害の関係をスギ林についてみると,その平均被害率は緩斜地が急斜地より大きい.これは,スギ林では谷筋に緩斜地が多いこととも関係があるものと認められる.(4)樹種別の被害率はエンピツビャクシン,スギが大きく,ヒノキ,クスは軽少であつた.スギには挫折被害が多く,エンピツビャクシンには根返り木が多い.(5)スギ,ヒノキともにI, II齢級の幼齢林には被害が少く,III齢級以上の林分に被害が多い.ことに伐期近い林分には被害が多く発生しているが,その被害率はIV齢級以上では年齢の増加にともなつて減少する傾向がみられる.(6)雪害林のうち,被害をまぬがれた健全木は,被害木にくらべて一般に胸高直径,樹高,樹冠直径ともに大きく,正常な樹形のものが多い.しかし,被害木のうち梢折木のみは健全木より直径,樹高とも大きい傾向がみられた.(7)一般に梢折木は上層木に多く,傾斜木,曲り木は被圧木に多い傾向が認められる.また幹折木の挫折高は年齢を増すにつれて高くなる傾向がみられる.(8)成立本数の多いほど被害率の増加する傾向がみられ,特に間伐手遅れの過密林分およびこれを急激に間伐した直後の林分は被害率が高い.従つて雪害を軽減するためには早期より適度の除伐,間伐を繰返し,樹形,形質の不良な2級木や被圧木を除去することが必要と認められる.(9)雪害木の利用率算定法として,小班ごとに被害木の径級別細り材積表を作製し,これによつて被害木より採材し得る丸太材積を求め,全被害木の利用可能材積を算定した.この方法による全調査被害木の平均利用率はスギ62%,ヒノキ66%,エンピツビャクシン68%であつて,演習林において算定したスギ,ヒノキの利用可能材積は,造材実行結果との誤差率2.7%に過ぎず,きわめてよく適合する.