著者
山田 尚勇
出版者
国立情報学研究所
雑誌
学術情報センター紀要 (ISSN:09135022)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.253-311, 1995-03-31

多様性を持つ人類は、いろいろな能力において個人差が大きい。その中でも感覚器系の能力が他と大きく異なっている人たちとして、先天盲や先天聾の人たちがある。そのほか、難読症者の中にも感覚器系の異状によるものがみられる。さらには、異状の程度としては低いものと思われている人たちとして、左利きがある。 また人類を他の動物から大きく引き離している能力の一つとして、言語の使用がある。この言語には、もっともふつうなものである音声言語のほかに、それを墨字や、盲人の用いる触字(点字)に写した文章があり、またそれらとは少し系統の異なるものとして、今では手話が自己完結の言語として認められている。 本稿では上記の感覚障害者たちが、必要に合わせて適当な特殊言語を用いているのに並行して発現する、大脳の言語処理機能の特殊性や異状性について、手話の活用を中心に、脳科学的、心理物理学的な一般向けの展望を試みる。 さらに健常者が手話という特殊言語を第2言語として習得し駆使しようとするときに起こる一般的な問題と、その軽減の可能性について考察をする。