著者
関口 安義
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 = Bulletin of The Faculty of Language and Literature (ISSN:09145969)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.196-165, 2005-09-01

成瀬正一は一高・東大時代の芥川龍之介の友人である。二人に久米正雄・松岡譲・菊池寛を加えての同人誌が、文学史上名高い第四次『新思潮』である。成瀬正一は第一次世界大戦中に、戦火のパリを経て、ジュネーヴからレマン湖畔のヴェルヌーヴに滞在中のロマン・ロランを訪ね、戦争や平和の問題、さらにはアジアやアメリカの問題を真剣に議論している。わたしはかつて『評伝成瀬正一』を刊行し、ロマン・ロランとの会見の様子も簡単に記した。 が、研究は日進月歩である。冷戦後のボスニア紛争をはじめとする民族間の争いを考える時、洋の東西、民族、人種、年齢を超えた二人の語らいは、二十一世紀のこんにち、新しい角度から評価される面をもって、わたしたちの前にあるのに気づく。新世紀を迎えた時点で成瀬正一の道程、今回は特にロマン・ロランとのかかわりに、いま一度光を当てようというのが本稿での試みである。これまた、わたしの芥川研究の一環である。