著者
関口 安義
出版者
文教大学
雑誌
文学部紀要 = Bulletin of The Faculty of Language and Literature (ISSN:09145975)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.120-89, 2006-03-01

東京上野の国立西洋美術館には、松方コレクションと呼ばれる西洋の絵画・彫刻・工芸品、特にフランス印象派の絵画とロダンの彫刻で知られた美術収集品がある。実業家の松方幸次郎が大正後期から昭和初期にかけて収集したものとされている。この松方コレクションは、すぐれた美術鑑賞眼を持つ成瀬正一の協力のもとになったことは、意外と知られていない。国立西洋美術館は開館当初こそ松方コレクションが成瀬正一の助力で形成されたことを小さく報じていたものの、一九九八(平成一〇)年秋の改築後は、そのいわれを記した案内板も消え、『国立西洋美術館名作選(1)』という立派なカタログの高階秀爾の「序文」にも、成瀬正一の名はない。本論では、芥川龍之介の友人成瀬正一の松方コレクションとのかかわりを中心に、同時代青年の文学と美術への関心に光を当てることとする。本論もわたしの芥川研究の一環である。