著者
阿部 律子 阿部 律子
出版者
長崎県立大学学術研究会
雑誌
長崎県立大学論集 (ISSN:09188533)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.89-123, 2001-03
著者
松本 勇
出版者
長崎県立大学
雑誌
長崎県立大学論集 (ISSN:09188533)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.111-186, 2007-12
被引用文献数
1

国内航空輸送の参入規制及び運賃規制に対する規制緩和はまず参入規制について昭和45年(1970)からのいわゆる「45・47体制」が昭和61年(1986)に廃止されたのを手始めに,高需要路線の「ダブル・トリプルトラッキング化基準」の緩和,平成9年(1997)の同基準の廃止により弾力的な路線設定が可能となるなど段階的に進められた。平成10年(1998)の需給調整規制の廃止に向けた「運輸政策審議会交通部会」の答申により平成11年(1999)6月航空法の一部改正法の成立を見て,平成12年(2000)2月需給調整規制の廃止により市場原理と自己責任の原則により事業経営を行うこととなった。運賃規制についても認可制から平成2年(1990)の標準原価の導入,平成7年(1995)5月の「営業政策的割引運賃設定の弾力化」,平成8年(1996)の「幅運賃制度」の実施を経て平成12年(2000)2月には需給調整規制の廃止に併せてすべての運賃が認可制から事前届出制へと移行した。離島航空路線など市場原理のみでは日常生活に不可欠な航空輸送サービスを確保出来ない分野については,平成10年(1998)の同答申でも生活路線の維持方策の確立を確認し,その必要性とコストとを勘案した上で,一定の範囲内でその確保に配慮することが必要との考え方を示している。需給調整規制の廃止による航空会社間の競争の激化は航空会社内の内部補助の幅を狭め,航空会社の市場からの撤退を招く。しかし離島航空路線はナショナルミニマムの観点から,たとえ不採算であっても生活路線についてはその維持を図る必要がある。このための補助政策としては従来から航空機購入補助,空港使用料軽減,固定資産税の軽減などが実施されて来た。これらの補助の他に平成11年(1999)新たに運航費補助が追加された。しかし離島航路で実施されているような財政的にも安定した補助政策である「離島空路整備法」の制定は未だなされていない。またその支援については支援制度の設計は国が行うが,具体的な対象路線の選定や維持などは地方公共団体が主体的に行うことを求められている。航空輸送の特性は高速性にその利便性があり,長距離輸送にその優位性を発揮出来る。しかし「航空ネットワーク機能」もまたそれらと同様重要である。離島航空路線は比較的短距離なものが多く,その輸送特性が必ずしも十分に発揮出来ないだけではなく,近年代替交通機関である船舶の高速化が飛躍的に向上している。一方離島は人口の減少,経済の低迷などを背景に旅客需要の減少を招いている。需給調整規制の廃止は不採算路線の集中する離島航空路線を直撃し減便,休廃止,内部補助の期待できないより小規模な航空会社への移管,航空機の小型化などを招いている。このような離島航空路線の環境変化を背景として長崎県にある離島航空路線でも減便,休廃止,航空会社の移管,航空機の小型化が進んでいる。特に9人乗りのアイランダーなど小型機で運航されていた上五島空港と小値賀空港は平成18年(2006)4月の路線の全面廃止と共に空港ターミナルビルは解散し,空港そのものの「廃港」を余儀なくされる状況にある。新上五島町と小値賀町は両町主導のもとで2年間の猶予期間のうちに空港の機能を何とか維持し,廃港を避ける方策を現在模索している。本稿では上五島空港および小値賀空港を中心に長崎県における5つの離島空港とそれぞれの路線の沿革と現況を高速船との競合という視点からまず分析する。高速船との競合は壱岐空港,福江空港でも見られる。たとえ船舶の高速化によって離島住民の利便性は改善されているとはいえ,離島住民の移動手段は船舶と航空機のみである。特に離島の地域振興は観光に支えられる部分が大きい。航空のネットワーク機能はこの点でも重要である。次に上五島・小値賀空港の廃港問題と県及び関係市町村の路線維持に対する対応を長崎県の翼であるオリエンタルエアブリッジ(旧長崎航空)の沿革と会社がかかえる問題点を詳細に振り返えると共に,その将来を展望することにより人口減少,高齢化,経済の疲弊,競争の激化という離島がおかれている非常に困難な社会経済情勢の中で今後どのような方策をとれば離島の航空路線を維持していけるのかについて,ナショナルミニマムと地域活性化という視点から考える。