著者
渡部 陽介
出版者
人間・環境学会
雑誌
MERA Journal=人間・環境学会誌 (ISSN:1341500X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.79-88, 2010-11-30

本稿は,これまで筆者が農村地域において地域アイデンティティの観点から行ってきた2つの景観研究の紹介を通じて,トランザクションを踏まえた景観研究のあり方について検討を行なうことを目的とした。本稿は4つの節から構成されている。第1節では,「生活景」と「地域アイデンティティ」に対する関心の高まりを背景に,主客不分離の発想に基づく景観研究が求められているおり,トランザクションを踏まえた景観研究が今後重要になっていくことを論じた。第2節と第3節では,地域アイデンティティの観点から行った2つの景観研究の事例を紹介した。具体的には,研究事例1では,従来の景観研究で否定的に評価されてきたビニールハウス景観を,地域アイデンティティの観点から再評価した研究を紹介した。研究事例2では,「生育環境を共有する者同士が語り合う」というグループインタビューの手法を用いて,農村地域居住者が地域アイデンティティとして認識する景観と行為の関係を解明した研究を紹介した。これら2つの研究事例の特徴としては,「地域固有の価値観」,「質的研究手法」,r観と主体の関係性」の3点を重視したことが挙げられる。第4節では,今後の研究の展望を踏まえつつ,トランザクションを踏まえた景観研究とは,地域固有の価値観に基づき主体と景観の動的で深い関わり合いの解明を目的とする研究であると結論づけた。