著者
中山 穂孝
出版者
大阪市立大学都市研究プラザ
雑誌
都市と社会 = Journal of urban society (ISSN:24350583)
巻号頁・発行日
no.3, pp.88-103, 2019-03

本稿は、別府と並び数少ない温泉観光都市である熱海の近代期における発展過程を、中央政府や民間企業、政財界人などの開発者の構想や目的に注目しながら明らかにするものである。近代熱海の温泉観光地としての発展は、中央政府や在京政財界による鉄道交通網の整備と在京政財界人や地元民間企業による温泉掘削を土台として進んだ。温泉掘削は、温泉資源の利用を拡大させ、鉄道交通網の整備は、東京との地理的距離の克服に寄与した。その結果、在京企業をはじめとする民間企業の温泉観光業への新規参入を促した。また、近代熱海は、衛生思想の普及などを背景に多くの温泉別荘地が形成された。さらに、中央政府は、熱海の良質な温泉資源に注目し、日本初の温泉療養施設を整備した。以上のことから、近代熱海は、東京との地理的な近接性と中央政府も認めた良質な温泉資源を武器に、在京政財界や民間企業による温泉観光業への新規参入や別荘地開発が進み、温泉観光都市として発展を遂げたのである。