著者
杉野 衣代
出版者
大阪市立大学都市研究プラザ
雑誌
都市と社会
巻号頁・発行日
no.3, pp.104-127, 2019-03

ハウジングファースト(Housing First)は1992年に米国ニューヨーク市で始まったホームレス支援方式であり、まず先に住まいを提供しその後本人のニーズに応じて支援を提供するモデルである。本稿では、近年東京において始まったこのハウジングファーストという支援方式に着目する。筆者は「ハウジングファースト東京プロジェクト」構成団体の支援活動に参加しながらインタビュー調査を実施するアクションリサーチを行った。本稿では、3名の若年ホームレス経験者の事例を中心に9名(内4名はスタッフ)のインタビュー結果からハウジングファーストによる支援プロセスを明らかにすることを試みた。その結果、ハウジングファーストは、ホームレス状態から移行するシェルター入居時にハウスとホームというホームレス経験者にとっての生きる基盤を無条件に得ることができる支援モデルであることが分かった。本稿で扱った事例は少数ではあるが、既存の支援実践に加えてハウジングファーストも広く普及していく意義がある実践ではないかと考える。
著者
ノヴァック デイビッド 松井 恵麻
出版者
大阪市立大学都市研究プラザ
雑誌
空間・社会・地理思想 = Space, society and geographical thought (ISSN:13423282)
巻号頁・発行日
no.23, pp.181-198, 2020

今日、日本の都市部において、非営利で草の根的なアートの組織が問題を抱えた都市地域の中で展開されている。そうした場所では、創造的活動の中でも新自由主義的な手法が、社会的または経済的に排除された人々や場所を支援するために利用されている。ジェントリフィケーションは、現代社会の中で広く見受けられる現象であるものの、ポスト工業化した日本の都市地域では、そうした実践が特別な波及効果を生み出す、地域の文化的表現によって支えられている。……
著者
Mitchell Don 森 正人
出版者
大阪市立大学都市研究プラザ
雑誌
空間・社会・地理思想 = Space, society and geographical thought (ISSN:13423282)
巻号頁・発行日
no.7, pp.118-137, 2002

「新しい文化地理学」における「文化」の再概念化は, 諸過程や政治, そして社会生活の他の「諸領域」との相互関係へと関心を転換させる上で重要であるとしてきた。しかしこの再概念化は理論的または経験的な進歩を引き起こしたけれども, 文化地理学は「文化」を物象化し続けているし, それに存在論的なまたは説明的な地位を与えている。本稿において私は, そのような物象化が誤った考えであり, また文化地理学は「新しい文化地理学」に従っているためにその論理的な帰結を(存在論的な)ものとして文化は存在しえないという認識へといたらせることでより良きものとなるであろうことについて議論する。その代わりに私は, 文化という観念(もしくはイデオロギー)の唯物論的な展開に焦点を当てて議論をおこなう。.......
著者
俞 世洋 張 慶遠 栄 益 張 暁飛 張 旭 岡野 浩[編] 金 大一[編] 邬 素雅[編]
出版者
大阪市立大学都市研究プラザ
雑誌
都市と社会 (ISSN:24327239)
巻号頁・発行日
no.5, pp.42-51, 2021-03

2020年の新型コロナ・パンデミックは、世界的な経済発展の一時停止ボタンを押し、国内外産業の事業運営にも大きな影響を及ぼしている。本稿では、正常軌道に戻したかに見える中国における化粧品および自動車製造企業、中小の部品サプライヤーにとって突如としてコロナに見舞われた際に、オンラインのライブ配信をはじめデジタル・トランスフォーメーションなどを駆使するなどして、いかにして対応したか、また、アフターコロナ時代における姿勢や方向性について編者の求めに応じて示していただいた。本稿において共有されるコンテンツは、世界の人が様々な経験から学び、将来の不確実なリスクに対する抵抗力を高めることを目的としている。なかでも、サプライチェーンの再構築は、常にユーザーのニーズを一義的に捉えながら、革新的な研究開発の活力を維持し、優れた品質の製品が常に業界の発展の力の源であることが保証されるべきという点は重要であろう。
著者
成瀬 厚
出版者
大阪市立大学都市研究プラザ
雑誌
空間・社会・地理思想 = Space, society and geographical thought (ISSN:13423282)
巻号頁・発行日
no.23, pp.3-12, 2020

本稿は, 地名研究における新しい方向性を見出そうという試みである. 地名は大小の空間スケールを有する地理的実体に付された名称であり, 階層性を有する. ……
著者
網島 聖
出版者
大阪市立大学都市研究プラザ
雑誌
空間・社会・地理思想 = Space, society and geographical thought (ISSN:13423282)
巻号頁・発行日
no.23, pp.13-35, 2020

I はじめに : 西日本の大学にある人文系地理学教室の多くが史学科ないし史学地理学科に所属していたという伝統を共有する。その発信源となったのが、第二次世界大戦前における……
著者
中山 穂孝
出版者
大阪市立大学都市研究プラザ
雑誌
都市と社会 = Journal of urban society (ISSN:24350583)
巻号頁・発行日
no.3, pp.88-103, 2019-03

本稿は、別府と並び数少ない温泉観光都市である熱海の近代期における発展過程を、中央政府や民間企業、政財界人などの開発者の構想や目的に注目しながら明らかにするものである。近代熱海の温泉観光地としての発展は、中央政府や在京政財界による鉄道交通網の整備と在京政財界人や地元民間企業による温泉掘削を土台として進んだ。温泉掘削は、温泉資源の利用を拡大させ、鉄道交通網の整備は、東京との地理的距離の克服に寄与した。その結果、在京企業をはじめとする民間企業の温泉観光業への新規参入を促した。また、近代熱海は、衛生思想の普及などを背景に多くの温泉別荘地が形成された。さらに、中央政府は、熱海の良質な温泉資源に注目し、日本初の温泉療養施設を整備した。以上のことから、近代熱海は、東京との地理的な近接性と中央政府も認めた良質な温泉資源を武器に、在京政財界や民間企業による温泉観光業への新規参入や別荘地開発が進み、温泉観光都市として発展を遂げたのである。