著者
尾崎 愛美
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24352039)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.30-46, 2020

<p>近時、米国では、反差別運動の高まりを受けて、顔認証システムを犯罪捜査に提供することを停止する企業が散見される。また、サンフランシスコ・サマーヴィル・オークランド・ボストン・ポートランド等、顔認証技術に関する規制を設けた都市も見受けられる。</p><p>報道によれば、既にわが国の捜査機関でも顔認証システムの運用(さしあたり本稿ではこの種の捜査手法を「顔認証捜査」と称することとする。)が開始されているようである。この点、顔認証捜査の被侵害利益に関しては、プライバシーにとどまらず、公平性(フェアネス)や表現の自由といった観点からの検討も不可欠であると考えられる。本稿では、比較的早い段階から顔認証技術が社会にもたらす影響に関する研究が進められてきた米国の議論を参考に—わが国において顔認証技術の適正な利用を進めるにあたっても必要となると思われる—顔認証捜査に対する法的規制のあり方について考察を行った。</p>
著者
渡邊 卓也
出版者
情報ネットワーク法学会
雑誌
情報ネットワーク・ローレビュー (ISSN:24352039)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.16-29, 2020

<p>不正指令電磁的記録に関する罪(刑法19章の2)は、サイバー犯罪条約の要請により、コンピュータウィルスによる被害を防止してプログラムに対する信頼を保護し、情報処理の円滑な機能を維持するために導入された。その客体は、コンピュータを使用者の「意図」のとおりに動作させない「不正な指令を与える電磁的記録」と定義されるが(刑法168条の2第1項1号)、反「意図」性を如何なる基準によって判断すべきかは、必ずしも明らかではない。</p><p>そこで、反意図性要件の意義について、近時の判例を参照しつつ論じた。具体的には、仮想通貨のマイニングを実行するために設置されたコードにつき反意図性が争われた、コインハイブ事件が対象である。同罪の立法経緯や罪質に鑑みれば、規範的観点からみた許容性こそが判断の本質である。判例の示した抽象的な基準はともかく、具体的な判断には問題があり、これを解決するためには立法による対処が望ましい。</p>