著者
江田 真毅
出版者
北海道大学大学院文学研究院考古学研究室
雑誌
北海道大学考古学研究室研究紀要 (ISSN:24365874)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.41-50, 2021-12-06

ニワトリ (Gallus domesticus) は東南アジアに生息するセキショクヤケイの一亜種 (G. galhus spadiceus) を主たる祖先とする家禽であり、日本には弥生時代中期に渡来したとされる。その後の日本で利用されたニワトリの品種や大きさに関する知見は文献史学からもたらされている一方、考古学的には報告書などでの散発的な報告に留まり、実態はよくわかっていない。大分県大分市の中世大友府内町跡では 1570~1586年に比定されるニワトリの骨が多数報告されており、その分析から当時のニワトリの大きさについての知見が得られると考えられた。そこで本研究では同遺跡から出土したニワトリの足根中足骨を計測し、U検定や混合分析 (Mixture analysis) などの統計学的手法を用いて検討した。また、骨の長さを動物園などで飼育されていたセキショクヤケイと比べるとともに、回帰分析を利用してさまざまな品種のニワトリの体重とも比較した。その結果、大友府内町で利用されたニワトリは、動物園などで飼育されていたセキショクヤケイに比べて大きいことが分かった。また、距突起の有無で性を推定して実施した混合分析の結果、雌雄ともに2つの品種あるいはそれに類するサイズグループに由来する個体が含まれることが確認された。雌雄で推定された2つのサイズグループは、いずれも中世末に日本にいたとされる現在の地鶏や小国よりかなり大きかった。このことは、かつての地鶏や小国が現在より大型であった可能性や、これまで文献史料から考えられてきた以上に当時までに外来鶏が普及しており日本鶏と交雑していた可能性から説明できると考えられた。