著者
前田 廣恵 福田 隆一 宮本 良美
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.50, 2005 (Released:2006-08-01)

【目的】四つ這い位での胸椎部可動性と腰痛との関連性について調査する。【対象と方法】神経症状のない慢性腰痛患者(以下腰痛群)10名、健常者(以下非腰痛群)10名を対象に四つ這いにて肩峰・坐骨結節・胸骨剣状突起の高さの棘突起(以下A点)にランドマークしキャットカールを行い、それぞれの肢位にて写真撮影を行う。肩峰・坐骨結節を結ぶ線を基準線にA点とのなす角を胸椎部可動性とし腰痛群・非腰痛群で比較、また、下肢のタイトネス・股関節の可動域との関連性について検討した。【結果】1、胸椎部伸展位への角度変化において腰痛群で有意に可動性低下を認めた。2、胸椎部屈曲位から伸展位への角度変化において腰痛群で有意に可動性低下を認めた。3、股関節可動域において腰痛群の屈曲・内旋に有意な制限を認めた。4、タイトネステストにおいて腰痛群の大腿四頭筋に有意なタイトネスを認めた。【考察】今回の結果より、腰痛群において胸椎部伸展方向への可動性低下があり、上半身重心が後方に位置している傾向にあると推測された。胸椎制御は体幹に柔軟性を要求し、支持性を筋活動から非収縮組織に移行でき筋疲労しにくいという利点があるが、腰痛群においては胸椎部可動性の低下により周囲筋への負担が大きいことが予測される。また、下部体幹制御は上半身重心の前後移動に関与するという報告より、腰痛群において、上半身重心が後方へ偏移した姿勢が固定化された代償として下半身にも影響を及ぼしていると考えられる。腰痛群の股関節屈曲に有意な制限を認めた要因として、股関節伸筋群のタイトネスによる骨盤後傾位が挙げられ、同様に大腿四頭筋のタイトネスも生じたものと考えられる。また、股関節内旋制限においては、骨盤の運動のみを考えると、胸椎部伸展位への運動制限により骨盤においては寛骨のうなずき運動が不十分(骨盤後傾位)となり、股関節は外旋位優位となるためであると考えられる。以上のことから、上半身重心の存在する胸椎レベルの可動性獲得は重要であり、胸椎部の可動性低下が腰痛を引き起こす一要因であると捉えるべきである。しかし、今回の研究では純粋な胸椎可動性の評価には到らなかったため、今後は下肢・骨盤の影響を除去した肢位での純粋な胸椎可動性の評価法を考案し、腰痛との関連性について更に調査していきたい。【まとめ】1、四つ這い位での胸椎部可動性と腰痛との関連について調査した。2、腰痛群において胸椎伸展方向への可動性低下を認めた。3、腰痛群の股関節屈曲・内旋制限、大腿四頭筋のタイトネスを認めた。4、胸椎可動性低下が腰痛の1要因として考えられた。5、下肢・骨盤の影響を除去した肢位での純粋な胸椎可動性の評価法が重要である。
著者
大橋 光
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.74, 2005 (Released:2006-08-01)

【はじめに】当施設では、主に自分らしく穏やかに日々を送れる様に援助することを目標にケアを行っている。今回その中に作業療法士として関わる機会を得て、施設内での環境設定や拘縮予防の関節可動域訓練・歩行訓練などの機能訓練と共に、QOLの向上を目的とした選択可能な作業活動を取り入れ実施した。当施設における現状と今後の課題を報告する。【目 的】〔陶芸教室〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激等の刺激入力 2)手指巧緻性の維持・向上 3)楽しみ・顔馴染みの関係の獲得 4)精神機能面の賦活〔音楽クラフ゛〕1)固有感覚刺激、聴覚刺激等の刺激入力 2)見当識・記名力の維持・改善 3)精神機能面の賦活 4)自発性・意欲の維持・向上 〔手芸クラフ゛〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激、聴覚刺激等の刺激入力 2)手指巧緻性の維持・向上 3)精神機能面の賦活 4)自発性・意欲の維持・向上 〔料理教室〕1)固有感覚刺激、触覚刺激、視覚刺激、嗅覚刺激等の刺激入力 2)精神機能面の賦活 3)自発性・意欲の維持・向上 4)日常生活動作(以下ADLと略す)能力の維持・向上【方 法】〔陶芸教室〕毎月第1月曜日1)対象者 意識障害のない両手又は片手が使用できる利用者 2)準備物 粘土、水、手ロクロ、エフ゜ロン、釉薬 3)人数 実施者5から6名、見学者5から6名 4)実施場所 施設内訓練室 5)時間 1時間半から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名 〔音楽クラフ゛〕毎月第2月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 キーホ゛ート゛、歌詞集 3)人数 15から20名(平均年齢86±13から16)4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名 〔手芸クラフ゛〕毎週第3月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 テーマに合わせた物品(例)貼り絵、絵手紙等 3)人数10名前後 4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名 〔料理教室〕毎月第4月曜日 1)対象者 意識障害のない利用者 2)準備物 テーマに合わせた材料、包丁、まな板等 3)人数10名前後 4)場所 施設内訓練室 5)時間 1時間から2時間 6)参加スタッフ OT、機能訓練指導員、介護職員2から3名【現 状】〔陶芸〕作品作りをOT・他スタッフの介助下で行う。最終的な修正をOTが行う.その後、素焼き・染色・本焼きを経て作品の完成とする。 〔音楽クラフ゛〕季節の歌や利用者からのリクエスト曲の歌詞カート゛を作成し、皆で合唱する。また、発声練習や準備体操、日付の確認なども併せて実施する。 〔手芸クラフ゛〕各月のカレンタ゛ーの作成や書初めなどを実施する。テーマは利用者から提案されたものや介助者から提示する。 〔料理クラフ゛〕おやつ作成や郷土料理つくりを実施。利用者のできることを行ってもらうように誘導する。【まとめ及び今後の課題】各活動共に参加者の固定化が見られてきており、馴染みの関係が築かれつつある。また、利用者とスタッフとの信頼関係の形成も出来てきていると考える。しかし、男性利用者及び不参加者のQOLの向上につながる活動の選定ができておらず、限られたク゛ルーフ゜での活動になっている。それと同時に、利用者の高齢化と重度化が進み実施可能な項目が限定されてきているという現状もあることから、活動の選択も難しくなっている。今後の課題として、これらの利用者の参加できる活動の選定を行いQOLの向上に努め、少しでも長く自分らしい生活の維持ができるようにサホ゜ートしていきたいと考える。
著者
徳永 明子 四元 珠紀 四元 孝道 山内 愛 梅本 昭英 日吉 俊紀 窪田 正大
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.138, 2005 (Released:2006-08-01)

【はじめに】左半側視空間無視(以下左USN)を伴う慢性期脳梗塞患者1例に習字を導入した結果,BITの改善及びADLの向上がみられたのでそれらの結果に若干の文献的考察を加え,報告する。【症例】77歳男性。右利き。現病歴:2003.9.19に脳梗塞(右内頸動脈閉塞)罹患。既往歴:1928年腰椎骨折,1985年転落により頭部打撲・左下腿骨折。【入院時評価】2003.12.15(発症3ヵ月後)左上下肢運動麻痺(II,I,II),表在・深部感覚は中等から重度鈍麻。高次脳機能:左USN(BIT通常検査48/146点,重度),注意障害,失語,構音障害,聴覚・視覚的理解力の低下 ADL:B.I 10/100点(食事以外要介助)【習字実施直前時評価】2004.8.19(発症11ヵ月後)高次脳機能:BIT通常検査48/146→69/146点ADL:B.I 10/100→25/100点(更衣,移乗,整容が改善)【習字を利用したUSNに対する訓練方法】病前より書字に興味があったことから,今回USNへの訓練方法として習字を導入した。課題は症例自ら選定し,準備・書字後のフィート゛ハ゛ックは担当OTと共に行った。実施期間は発症後11カ月より30分/1回,3回/Wで4カ月間実施した。【改善点】2004.12.20(発症15カ月後)高次脳機能:BIT通常検査69/146→113/146点ADL:B.I25/100→35/100点(車椅子駆動自立,移乗軽介助) 【考察】入院時から習字実施までの11ヵ月でBIT通常検査が48/146→69/146点と21点改善した。さらにその後,USN訓練として習字を集中的に4カ月間実施した結果, 69/146→113/146点と41点改善がみられた。ADLも25/100→35/100点となり,なかでも車椅子駆動時の左障害物への接触消失,靴・装具の着脱手順把握・テーフ゜着脱忘れの改善がみられた。また,習字の効果の維持もできていた。Mesulam(1981)は,USNは方向性注意の障害とした上で,帯状回!)下部頭頂葉!)前頭葉!)網様賦活系が形成するネットワーク回路の障害により,USNが生じるとしている。帯状回は,反対側空間への情動の方向付け,下部頭頂葉は,反対側空間の知覚入力の統合・知覚表象図式の形成,前頭葉は,反対側空間での運動の開始・抑制に関する出力の統合・運動的探索を行っている。そして網様賦活系は,上記3つの領域を賦活して覚醒的基盤を与えているとしている。これらのメカニス゛ムと習字の特性を比較すると,習字への関心や手本照合による左右探索等は帯状回,作業範囲の拡大や字の大きさ等は下部頭頂葉,習字の開始・終了のコントロールは前頭葉が担っていると推測される。習字がこれらのネットワーク回路に相互的にハ゛ランスよく機能した為,USNが改善したと思われる。
著者
鎌村 美由樹 東 貴子 岸本 稔 原口 真由美
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 第27回九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.6, 2005 (Released:2006-08-01)

【はじめに】今回、介護保険申請時期と退院前訪問指導時期を調査し、ケアマネーシ゛ャー(以下,CM)・施行業者同行の有無が在宅復帰までにどのように影響しているかを検討したのでここに報告する。【対象】2004年4月から2005年3月の間に、当院で退院前訪問指導を実施した61例(女性32例、男性29例)を対象とした。平均年齢は、75.9±12.4歳。疾患別では、脳外24例、整形30例、その他7例。【方法】1.介護保険新規申請者の入院日から介護保険申請日までの平均日数を、脳血管疾患と整形疾患とで比較。2.介護保険新規申請者と介護保険取得者の入院から退院前訪問指導までの平均日数を、脳血管疾患と整形疾患とで比較。3.CM・施行業者同行の有無による退院前訪問指導から退院日までの平均日数を比較。【結果】1.介護保険新規申請者の入院日から介護保険申請日までの平均日数 脳外106.3±98.5日、整形74.3±35.9日2.入院から退院前訪問指導までの平均日数 1)介護保険新規申請者;脳外152.7±120.2日、整形81.9±34.4日 2)介護保険取得者;脳外78.0±32.7日、整形78.8±19.6日3.CM・施行業者同行有無による退院前訪問から退院日までの平均日数:1)同行あり群24.8±15.9日2)同行なし群40.3±34.8日、同行あり群に比して退院前訪問指導から退院までの期間が短かった。(p<0.05)【考察】介護保険新規申請者の申請時期をみると、脳血管疾患が整形疾患に比べ一ヶ月近く遅れるという結果がでた。また、介護保険新規申請者の入院から訪問指導までの日数は、整形疾患と比較して脳血管疾患が2倍近く要している事が分かった。それに比べ介護保険取得者は入院から訪問までの日数は整形疾患・脳血管疾患では差が見られなかった。このことから、介護保険の申請時期が訪問指導の時期や退院時期に影響を与えていると考えられる。特に脳血管疾患では発症部位によりADL状態も様々で,障害も重篤になる事が多く、家族の受け入れに時間を要する事が多い。また在宅復帰にあたり、退院前訪問指導時にCM・施行業者が同行する事が、同行しない場合に比べ、退院前訪問指導から退院までの日数を約16日間短縮するという結果が出た。これはCMが同行することが、家族が在宅生活をより現実のものとして捉え、環境を整える準備とともに退院後の心構えを強くする重要な役割を果たしていると考える。