- 著者
-
澤田 美恵子
- 出版者
- 京都工芸繊維大学
- 雑誌
- 京都工芸繊維大学学術報告書 = Bulletin of Kyoto Institute of Technology (ISSN:18828779)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, pp.29-44, 2020-12
本稿では「私は今この人とともに何かをしている」という感覚を「共在感覚」と呼び、この感覚を呼び起こすような現代日本語の言葉を中心に分析を試みた。具体的には、現代日本語の「こんにちは」や「行ってきます」などの挨拶語と、日本語学においてもまだ完全には解き明かされていない「太郎ちゃんも大きくなったなぁ」などの文中で使用される詠嘆の「も」と呼ばれる助詞に着目し、話し手と聞き手が共有する環境への知覚をコミュニケーションの基盤として、話し手が現在や過去における共在感覚を聞き手に発話時に意識化させようと意図する表現であることを指摘した。「先日はありがとうございました」のような特別な表現を除く挨拶語の場合は発話時の時空間における共在感覚を、詠嘆の「も」の場合は過去における共在感覚を、発話時の時空間の共在感覚と重ね、発話時の「今ここ」において、聞き手に過去の時空間を意識させることによって、話し手は協調的コミュニケーションに向かおうと意図していた。こういった言語の使い方の基盤にあるコミュニケーションのあり方は、現代日本語だけの特別なものではないこと、Ecological Approach をとる Gibson, James Jerome や Neisser, U.などの視点から普遍的に妥当する可能性を有することを指摘した。